「安保」によって起きた事故を「全国紙」はどう扱ったか―沖縄国際大米軍ヘリ墜落事故報道の遅すぎる検証

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1面トップはどれに 

事故当日の夕方、各出稿部と整理部のデスクらによる会議に出席した。翌日朝刊の製作作業に先立って紙面構成などを決める場で、毎日行われている。ちなみにこの時の私の立場は地域面デスク。福岡県内のローカルニュースを扱う地域面・福岡版担当のデスクで、社会部デスクたちが数か月ごとに輪番でついていて、この時は私が担当していた。なので、一面や社会面用の原稿の出稿権限はないのだが、会議には毎日出席することになっていた。

 焦点はいつも、一面トップはどの記事でいくか、であり、デスク同士で論争になるのは日常だが、この日はそんな議論があるとは思わなかった。満場一致で米軍ヘリ墜落に決まっている。

 だが、紙面編集の権限を持つ整理部の当番デスクの考えはまったく違っていた。ちょうどこの日、プロ野球界を揺るがす、ちょっとした事件が起きていた。読売巨人軍のスカウトが、ドラフトで獲得を目指す大学野球部の選手に現金を渡していたことがわかり、オーナーの渡辺恒雄氏が引責辞任したのだ。球団の記者会見で明らかになった、そのニュースを一面トップに置くべきだ、と整理部デスクは言う。正直、驚いた。渡辺氏は有力者ではあるが、巨人のオーナーを辞めたぐらいのニュースでヘリ事故をトップから外すのか。それでも「この事件でプロ野球界の今後が大きく変わるかも知れない」と整理部デスクは主張する。

 ちょっと待ってほしい――。末席から声を上げた。事故関連の原稿を出稿するのは別の社会部デスクではあるが、一言も発しようとせず、そうであれば、黙っているわけにはいかない。

 確かに市民に死傷者はなかったが、それは僥倖に過ぎない。犠牲者が大勢出て大惨事になってもおかしくない事故だ。しかも日米外交の懸案である普天間飛行場の移設・返還問題にも直接関わってくる。ことの重大さは球界の事件よりはるかに上だ――。

 そんなようなことを述べたのだが、けっこう頭に血がのぼっていて、どれぐらい理路整然と説明できたか、よく覚えてない。いずれにしても最終決定は、当番編集長である局長補佐に委ねられることになった。

 しばらく彼は悩んでいたが、整理部デスクの意見を採用した。

全国紙各社の扱い

 事故の翌日、2004年8月14日付朝日新聞朝刊。1面トップは「巨人・渡辺オーナー辞任」。白抜き横カットのえらく大きい扱いだ。「米軍ヘリ大学に墜落」は左カタに収まっている。同じ日の社会面は第1社会面(左のページ)と第2社会面(右のページ)にまたがる形で、ヘリ事故を見開いているので、決して小さい扱いではないものの、全体的に見れば、この日一番という扱いではない。

次は、毎日新聞と読売新聞の西部本社版。いずれも1面トップに置き、毎日は社会面も見開きの扱いで、文句なくトップニュースの仕立てになっている。読売は「巨人オーナー辞任」をあまり大きくしたくない思惑もあったとみられるが、第1社会面も沖国大がトップで、やはりこの日一番手の扱いだ。両紙に比べると、朝日のヘリ事故本記は見劣りするものの、社会面を見開きにしたことで、かろうじて面目は保ったというところだろうか。

さらに小ぶりな東京紙面の記事

 以上はいずれも「西部本社版」だ。九州・山口地域向けの紙面である。では、同じ日の各社の「東京本社版」はどうだったか。東日本地域に配られる紙面で、言うまでもなく部数は東京の方がはるかに多い。

 まずは朝日の東京本社版。見ての通り、1面トップは「ナベツネ辞任」、左カタには、この日開幕したアテネ五輪が入り、ヘリ事故は3番手で写真もない。社会面を見ると、写真はついているものの原稿は削られて左カタに押し込められた。

 次に毎日。1面は写真なしの3番手、社会面は左カタ。朝日とほぼ同じだ。読売、日経、産経はいずれも1面にはなく、第1社会面左カタのみで、扱いはさらに小さい。

「東京本社版」で比べる限り、朝日の扱いが取り立てて小さすぎるとも言えなくなる。日米安保体制によって引き起こされた事故の重大性に対し、その当日に全国紙各社が下した評価がこれだった。

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