沖縄戦の遺⾻眠る⼟まで頼る辺野古沖埋め⽴て

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「アンケート結果」と矮⼩化

1 ⽉2 7 ⽇の参院予算委員会では、こんなやり取りがあった。

⽴憲⺠主党⽩真勲⽒ 辺野古新基地建設事業に関わる⼟砂の採取先として沖縄本島南部を⼊れたのは、どういう意味ですか。

岸信夫防衛相 変更承認申請書の作成にあたり採⽯業者に広くアンケートをしたところ、出荷可能との回答を得た中に南部が⼊っていた。前回の( 2 0 1 3 年の) 承認申請でも同じようにアンケートをしたが南部は⼊っておらず、今回( 前回から) 年数も経っていたので改めてアンケートをしたということです。

つまり、今回の設計変更の承認申請にあたり、改めて採⽯業者にアンケートをしたところ、沖縄本島南部からも出荷できるという回答が得られたので、調達先の候補に加えたという説明だ。岸防衛相は「まだ南部から採取すると決まったわけではない」とも述べ、候補地に過ぎないと強調した。

最初の欺瞞はこの説明ぶりだ。

設計変更の承認申請書で岩ズリの調達先の候補を⾒ると、確かに沖縄本島南部に限られず、九州から南⻄諸島まで散らばり、沖縄本島でも各地にある。ところが申請書の「埋⽴⼟砂等の変更」の項には、「沖縄県内において調達可能な量をもって必要量を満⾜できると想定している」と記してある。


申請書には様々な内訳も⽰され、埋め⽴てに必要な⼟砂のうち岩ズリは1 6 9 0万㎥ 。沖縄県内での調達可能量はそれを上回る4 4 7 6 万㎥ となっているが、うち南部が3 1 6 0 万㎥ を占める。申請書にある「想定」に沿って埋め⽴てに必要な岩ズリを「沖縄県内において調達可能」とするには、南部を外せない。

そもそもこの申請書で、なぜ南部に頼らざるを得ない「沖縄県内において調達可能」に⾔及したのか。輸送コストや埋め⽴て事業による外来⽣物の侵⼊を防ごうと、県が2 0 1 5 年に定めた県外⼟砂規制条例の影響が考えられる。防衛省の担当者は取材に対し事実関係を記しただけと述べたが、今後調達先を絞り込む際にこうした要素も勘案する可能性はあると話した。

つまり、岩ズリの調達先候補に沖縄本島南部が加わったことについて、採⽯業者へのアンケートの結果とだけ述べる岸防衛相の説明はその場しのぎの矮⼩化であり、南部から調達される可能性を何ら否定するものではないのだ。




昨年4月に政府が沖縄県に提出した辺野古沖埋め立ての設計変更承認申請の書類より、県内での岩ズリの調達先候補を示す図の一部

「国の責務」遺⾻収集を軽視

だとすれば⽇本政府、とりわけこの申請書を作った防衛省は、実際に岩ズリが沖縄本島南部から調達される可能性を予⾒しつつ、南部に集中する沖縄戦の遺⾻の収集作業との兼ね合いをどう考えていたのか。ここに⼆つ⽬の欺瞞がある。

2 0 1 6 年、超党派の議員⽴法である戦没者遺⾻収集推進法が全会⼀致で成⽴している。第1 条に⽬的を掲げ、「戦没者の遺族をはじめ今次の⼤戦を体験した国⺠の⾼齢化が進展している現状において、いまだ多くの戦没者の遺⾻の収集が⾏われていないことに鑑み、戦没者の遺⾻収集の推進に関し国の責務を明らかにする」と記している。

その「国の責務」については、第3 条に「戦没者の遺⾻収集の推進に関する施策を総合的に策定し、及び確実に実施する」と記し、2 0 2 4 年までを「集中実施期間」とし、厚労相が防衛相や外相など関係閣僚と連携して政治主導で「円滑かつ確実な実施を図る」よう求めている。

ところが岸防衛相は先の国会答弁の際、申請書作成にあたり「厚労省に事前の相談が必要だったとは考えていない」と語った。厚労省の担当者は私の取材に、防衛省から連絡があったのは、沖縄本島南部が岩ズリの調達先候補となったことを問題視する報道が出た昨年秋ごろだったと答えた。

普天間移設のため辺野古沖埋め⽴てを急ぐあまり、沖縄本島南部の岩ズリの調達可能量の多さに⽬を奪われ、戦没者の遺⾻収集における「国の責務」を軽んじた。防衛省の姿勢は私の⽬にそう映るが、岸防衛相はそうではないと国会で語った。

岸防衛相 ⼯事を進めていく中で、万が⼀といいますか、南部からの⼟砂の中に遺⾻が含まれている時には、先ほどの仕組みにのっとって連絡し調査をする。採⽯業者にもその仕組みのもとに⼟砂の採取が⾏われるよう契約関係の中でしっかりと求めていくことになります。

沖縄本島南部の⼟に遺⾻が含まれている可能性を「万が⼀」と表現する時点で驚きだが、そこから辺野古埋め⽴て⽤の⼟砂を採ることになっても、作業中に遺⾻が⾒つかれば収集できる。防衛省が契約する採⽯業者にきちんと求めるのだという。

三つ⽬の欺瞞は、この答弁に鮮明に表れている。すなわち、沖縄での遺⾻収集が開発と両⽴可能であるかのような認識の⽢さだ。

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