沖縄戦の遺⾻眠る⼟まで頼る辺野古沖埋め⽴て

この記事の執筆者

開発と両⽴可能という⽢い認識

この点について述べる前に、岸防衛相が述べている沖縄での遺⾻収集の「仕組み」と、その実態を説明しておく必要があるだろう。そこには、凄惨な地上戦の犠牲者の遺⾻を今も取り上げきれない⼀⽅で、遺⾻収集と島の発展のための開発の折り合いをどうつけるかという、県外の⼈たちの想像を超える沖縄の葛藤がある。

まず、沖縄での遺⾻収集の「仕組み」だ。ボランティア団体による戦跡調査や、業者による開発などによって遺⾻が⾒つかると、地元の市町村と警察署に通報が⾏く。事件の被害者ではないと警察が判断し、厚労省の鑑定を経て戦没者の遺⾻とみなされれば、沖縄県平和記念財団が受け取り国⽴沖縄戦没者墓園に収めるという流れが基本だ。

ここで難しいのが、業者による開発の場合だ。沖縄県の担当者によると、県内のその辺りに遺⾻がありそうだからという理由だけでは開発を規制できない。採⽯に限らず、道路整備や宅地造成など様々な開発で遺⾻が⾒つかっても、通報の義務はない。円滑に収集できるかどうかは業者次第で、その理解と協⼒をどう得るかが課題であり続けている。

業者にすれば、開発の際に遺⾻を⾒つけること⾃体が難しい。那覇市の遺⾻収集ボランティア団体代表、具志堅隆松さん( 6 6 )は、「砕けた⾻は⼟の⾊に染まって⾒分けにくく、似た形の⽯灰岩を⼿に取って⽐べ、⾻の⽅が軽いことで初めてわかる。コストを考える業者にそこまで期待できない。重機で⼟を掘り返しながら⾒つけることは不可能です」と⾔い切る。

先に触れた国会での議論では菅⾸相も⾒解を求められたが、「防衛省が適切に判断されると思います」と述べるにとどめた。遺⾻収集を担当する厚労省も、沖縄本島南部を⼟砂調達先の候補に加えたと昨年秋に防衛省から連絡を受けた後、防衛省と特に協議はしていないという。

全国各地の約5 5 0 ⼈が参加する「平和を願い戦争に反対する戦没者遺族の会」は昨年1 1 ⽉、菅⾸相や岸防衛相、⽥村憲久厚労相、河野太郎沖縄担当相に「辺野古新基地建設に戦没者の遺⾻が遺されている⼟砂を使わないよう求める緊急申し⼊れ」を郵送した。だが、その後なんの反応もない。

「沖縄の皆さんの⼼に寄り添う」( 菅⾸相) と⾔いながら、菅内閣のこの腰の重さは⼀体何なのだろう。

そもそも沖縄県に対して、辺野古沖埋め⽴ての⼟砂採取を本島南部に頼るような変更申請をすれば、このようにこじれることは⾒えていた。辺野古沖は普天間移設先の「唯⼀の選択肢」という点で譲らない菅内閣にすれば、県が許可しなくても法廷闘争に持ち込んで勝つのだと腹をくくり、調達可能量だけでみれば有望な本島南部を申請書に書き込んだのだろうか。

取材を通して改めて気になったのは、普天間移設を急ぐあまりに開き直ったかのような菅内閣の姿勢だ。

戦後に沖縄本島のあちこちで開発が進んだ結果、遺⾻収集ができなくなった場所は南部にもあるではないか。なぜ今さら、南部の⼟砂を辺野古埋め⽴てに使うことにだけ反対するのか― ― 。取材では政府関係者のそんな不満も聞いた。

「⽇本⼈、⼈間として許されるか」

だが、沖縄本島で開発の下に埋もれた遺⾻があることが事実であっても、それは太平洋戦争で⽇本の「捨て⽯」として凄惨な地上戦を強いられたが故の苦渋の選択だ。今なお多くの県⺠の遺⾻が眠る南部の⼟を、その地上戦後の占領に由来する⽶軍基地をさらに造るために使うことだけは避けてほしいという県⺠の思いへの感受性が、菅内閣には⽋けている。

沖縄で遺⾻の収集と供養に4 0 年近く携わる具志堅さんから、感受性の⽋如という点でさらに重い指摘があった。

「南部では全国各地から送られた⽇本兵も亡くなっている。⼟には⾻が埋まっているだけでなく、⾎が染み込んでいます。戦死したとされる場所で⾻を⾒つけられなかった遺族の多くは、⽯を代わりに⾻壺に⼊れて持ち帰ります。そうした場所の⼟や⽯を⽶軍基地を造るために海に投げ込むなどということが、同じ⽇本⼈として、⼈間として、許されるのでしょうか」

菅⾸相は1 ⽉2 8 ⽇、⽶⼤統領就任後のバイデン⽒と初めて電話で話し、「⽇⽶同盟のさらなる強化」で⼀致した。沖縄戦では多くの⽶兵も死傷している。その⾎も染み込んだ沖縄本島南部の⼟までを頼りに、在⽇⽶軍基地が集中する沖縄の⺠意に反し新たな施設を造ってまで「さらなる強化」をうたう⽇⽶同盟とは、⼀体何のためのものなのだろうか。

菅⾸相が急ぐ訪⽶が実現した際には、そうした議論をぜひバイデン⼤統領と深めてほしい。その上で、戦没者遺⾻収集推進法が掲げる「国の責務」をかみしめ、⽇本国⺠、とりわけ沖縄県⺠に届く⾔葉を⾒つけられないのであれば、本島南部の⼟を⼀粒たりとも辺野古沖埋め⽴てに使うべきでない。

【本稿は朝日新聞社の論考サイト「論座」の1月31日公開記事を転載しました】

この記事の執筆者