香港、台湾、そして沖縄…? 麻生太郎氏の「中国脅威論」

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麻生太郎氏の気になる「持論」

先日、目にした記事が気になっている。昨今の香港における中国の強硬姿勢は顕著だが、「同じことが台湾で起きない保証はないと考えると、台湾の次は沖縄」。こう「持論」を披露したのは麻生太郎副総理兼財務相で、今月5日、沖縄県選出の自民党議員の政治資金パーティーでのスピーチだという(『沖縄タイムス』2021年7月6日)。

 中国が香港での民主化運動に業を煮やし、強権発動によって「一国二制度」を有名無実化した状況と、新たに勢力を拡張して台湾、そして沖縄までを支配下に置こうとするのでは、そもそも意味することがまったく異なると思うが、興味深いのは麻生氏が言及する「シナリオ」である。台北でのデモや騒動に中国が軍隊を派遣して、「中国の内政問題だ」と主張して正当化するという。「次は沖縄。真剣に考えないといけない」(『産経新聞』2021年7月5日)。

中国が海を渡って軍事的に侵攻してくるという、ある意味、単純な話ではなく、台湾での「騒動」を中国が軍隊を派遣する口実に使うとは、一体どういうイメージなのだろうか。

ナチス・ドイツと「歴史の教訓」?

麻生氏にはなぜか、ナチス・ドイツの台頭や膨張を自身の「持論」に交える癖がある。憲法改正に関して、2013年に「ドイツのワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。誰も気が付かなかった。あの手口に学んだらどうかね」と発言し、2017年には「(政治家に)動機は問わない。結果が大事だ。いくら動機が正しくても何百万人殺しちゃったヒトラーは、やっぱり駄目だ」と述べて後者は国際的にも物議をかもした(麻生氏が言うヒトラーの「正しい動機」とは何なのか、まるで見当がつかないのだが…)。

 そうしてみると、麻生氏が口にする台湾や沖縄に対する中国膨張の「シナリオ」も、ナチス・ドイツの例を念頭においたものなのだろうか、というようにも見える。1933年に政権を握ったヒトラーは、38年に隣国のオーストリアを併合し、次いでチェコスロバキアに圧力をかけて領土を割譲させ、ついには併合に至る。その過程でオーストリアでは親ナチス勢力、チェコスロバキアではドイツ系住民による騒乱や運動を生じさせ、それを口実に介入したのがヒトラーであった。

 麻生氏の言う「台北でのデモや騒乱」とは、中国が介入の口実に使うような、中国と気脈を通じた勢力による活動ということであろうか。「次は沖縄」とは、よもや沖縄でも同じような現象が起きると想定しているわけではあるまいが、何ともイヤな感じのする話である。

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