菅首相退陣後の政治と沖縄

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「相性」が悪かった菅政治と沖縄

 菅氏の政治には見るべきものもあったと思う。菅政権発足後のワクチン接種拡大と加速やデジタル庁の設置など、個別具体的な課題の実現に向けて発破をかける馬力は、「仕事師」の名にふさわしいものであった。支持率の高かった政権発足直後に衆議院を解散すべきだという進言を、「仕事がしたいんだ」と言って退け、その結果として短命政権に終わった菅氏であった。「仕事に殉じた」と言うと、おそらくほめすぎなのだろうが。

 しかし、沖縄をめぐる問題について言えば、菅氏の政治手法は相性の悪いものであった。沖縄県と対立したままの辺野古での埋め立て着工など、工事の強行は「沖縄差別」といった言葉まで生じさせ、その強引さを批判する野党は辺野古新基地反対を掲げた。政治的対立の中で推進される新基地計画は、いつまでも政治的争点であり続けるだろう。不幸なことである。

「言葉」と「議論」と「知恵」を出し合う政治を

 菅退陣後の政治風景は、岸田政権の行方を含め、10月31日投開票の総選挙、そして来年に控える参議院選挙によってある程度、定まるのだろう。普天間・辺野古を中心とする沖縄の基地問題について言えば、「言葉」と「議論」と「知恵」を出し合う政治が展開されて欲しい。

官房長官として力を振るった菅氏であったが、首相の座に就くと、コロナ禍にあって国民に語り掛ける「言葉」を持ち合わせていないこと、応答と議論が成り立たないこと、自らの方針に頑迷にこだわり、広く知恵を集め、議論して方向性を定めるといった指導力に欠けることが露呈する中で、求心力を失って短命政権に終わった。そのような政治が沖縄に対してだけ継続されてよいはずはない。

岸田政権の松野博一官房長官は、「普天間飛行場の危険性の除去を考えた時、辺野古移設が唯一の解決策との考えを持っている」と語るが(『読売新聞』2021年10月16日)、なぜそれが「唯一」なのか、まずは意を尽くして説明する必要がある。

説明があれば議論も成り立つ。基地機能の分散移転など、別の方途がはるかに早道だという議論に対して、政府はどう考えるのか。最善の方途はどのようなものなのか。沖縄県も含めて知恵を出し合い、方向性を探る。「言葉」と「議論」と「知恵」を出し合うという、考えてみればごく常識的な政治の姿が、沖縄をめぐる問題でも回復されることを願ってやまない。

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