米中対立の先鋭化が「普天間問題」の構図を崩壊させるに至った、と断じても過言ではないであろう。普天間問題とは言うまでもなく、世界一危険な普天間飛行場の危険性を取り除くため辺野古につくる新たな基地に移設させる、という政府方針をめぐる問題である。ここでの危険性とは、米軍機やその部品が住宅密集地に落下するなど重大な事故が起きることであり、現に一つ間違えば大惨事になるような事故が繰り返されてきた。
攻撃される危険性
しかし、普天間がいま直面している危険性は、これとは全くレベルを異にするものである。それは普天間が軍事攻撃の対象になる、という危険性に他ならない。2019年に就任した海兵隊のバーガー総司令官は中国の脅威に対抗するため、中国兵器の射程圏内に小規模分散型の部隊を配備して島嶼防衛や奪還の任務を果たす遠征前方基地作戦の構想を打ち出した。この作戦構想に基づく自衛隊との連携訓練が普天間を軸に実施されているように、バーガー構想の展開において普天間は最重要拠点に位置づけられている。とすれば、仮に台湾有事が勃発した際には、嘉手納基地などと共に、何よりもまず普天間に攻撃が加えられ地域一帯は壊滅するであろう。
もちろん米中両国の指導者たちは、いざ戦争となった場合の計り知れないリスクを考慮して軍事的対立の激化にはきわめて慎重であり、状況次第では関係諸国の頭越しに“手打ち”する可能性も排除できない。しかし、現場における誤算が衝突を一気に拡大させたり、あるいは対決機運が「愛国的な世論」を刺激し、その世論の突き上げによって事態を制御できず「軍事の論理」が暴走した例は歴史に数多く見られる。
世論を煽る典型例は、安倍元首相による「台湾有事は日本有事、日米同盟の有事」との発言に見られる。しかし、そもそも人権問題も台湾問題も棚上げにして習近平国家主席の国賓としての訪日を要請し、中国人観光客への水際対策を怠りコロナの国内蔓延の契機を作り出したのは誰であったのか、無責任の極みである。こうした無責任な政治家による扇動が世論を刺激し緊張を高め戦争の危機を増大させる。