犠牲を強いるのは誰なのか~民主主義の現在地

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台湾有事の際、沖縄が攻撃対象になるリスクは高いとされる。「沖縄を守るため」として軍事要塞化も進む。だが、主眼は中国の覇権阻止で、対米貢献や国益を守る防波堤として県民が犠牲にされようとしているのではないか。そんな「対日不信」をぬぐえない人が沖縄には一定層いる。

台湾も沖縄も戦場にしてはならない。中国の武力行使は阻止しなければならない。だが、中国を封じ込める「民主主義の砦」の役回りを、民意を封じてきた側に押し付けられるのはどんな気持ちだろう。国家の利害や軍事に生活を脅かされてきた沖縄の人々の視座や感性を「親中国」と罵り、「国際情勢への理解が足りない」と揶揄したところで溝は深まるばかりだろう。

作家の真藤順丈は「ニューズウィーク日本版」(6月28日号)で「沖縄で起きたことはいずれ本土でも起きる」と説く。なぜなら、宗主国のアメリカからすれば、沖縄も日本全体も同じように占領を続けていく対象だから。真藤はこう予見する。「沖縄で民主主義が死ぬとき、国内でそれらしき影は跡形もなく消滅しているだろう」

沖縄の民主主義にも変化が見られる。沖縄国際大学の泉川友樹特別研究員は「八重山毎日新聞」(7月1~6日)の連載記事で、外交の成果を打ち消す動きを報告している。

中国公船の尖閣諸島周辺の領海侵入は、日本が同諸島を国有化した2012年に月平均5日だったのに対し、19年は2・6日、20年は2・4日と減少傾向が続いた。それが21年に月平均3・3日に増えた要因は、日本の政治団体や議員の「出漁」に中国側が反応したのが大半という。こうしたケースを除けば、21年の中国公船の領海侵入は月平均1日に減少。大半が午前10時ごろに1時間半~2時間侵入する予測可能な動きにパターン化しつつあるという。

泉川はその最大要因は第2次安倍政権下で日中が「見解の相違を認め、不測の事態を防ぐ」ことで合意した点にあると指摘。尖閣諸島近くに「出漁」し、中国公船の領海侵入を誘発させている政治団体などの動きに苦言を呈する。

ちなみに、今年1~5月の中国公船の領海侵入は月平均1・6日。月1日ペースを越えたのは石垣市長や市議の視察や出漁に伴うものという。市長選前の行動は地元の支持につながる、との計算があったはずだ。米国の議員が相次いで訪台し、緊張を高めている構図と相似形ではないか。

「頭の中で膨らませたイメージで中国を怖がるのではなく、地に足のついた交流によって等身大の中国を捉えていくことが重要だろう」

対話を求める声がかすむ中、泉川のこの訴えは貴重に思える。一方で、台湾周辺でエスカレートする中国の威嚇を肌で感じる地元にどう響くだろう、とも案じる。戦場は自然発生するのではなく、人為的に生み出される。沖縄に犠牲を強いるのは誰か。

【本稿は2022年8月28日付「毎日新聞」記事を転載しました】

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