王者猫
マチグヮーは近年、観光スポットにもなっているが、もともとは市民の生活エリアだ。ひっきりなしに訪れる地元の買い物客でにぎわう「奥間青果」(支店・那覇市松尾2-24-11)は一目で繁盛店とわかる。
店内の喧噪を尻目に、今帰仁村産のスイカの横ですやすや寝入っていたのが三毛のミー(1歳、♀)だ。看板猫担当の大嶺一機販売副部長によると、ミーの性格は「短気」なのだそう。スイカの皮はひんやりして気持ちよさそうだった。
「壷屋やちむん通り」にさしかかったとき、悠然と道路を横切る金色の毛並の猫に目を奪われた。高貴な王族の風格が漂う。
通りの歴史も琉球王朝時代にさかのぼる。1682年に尚貞王が三か所に散らばっていた陶窯をこの地に集約した。
王族をほうふつさせる猫は、クラフトハウス「スプラウト」(那覇市壷屋1-17-3)の店先にいた。琉球石灰岩を敷き詰めた地面でくつろぐ姿が、ひときわゴージャス。同店の店主、宜保清美さんは「毛並が豊かになる冬場は顔がふんわりして、もっと高貴な感じになりますよ」と教えてくれた。
猫好きのワンの店主
「桜坂通り」に桜はほぼない。戦後100本の桜が植えられたのが通りの名の由来だが、ほとんど土地に根付かなかった。
坂の途中にある「輸入ショップ『one』」(那覇市牧志3-2-36)の軒先に猫が群がっていた。猫に手を差し伸べている女性に声をかけた。
「猫たどり (猫をたどって歩いている) してるんです」
近隣町で雑貨店を営む屋宜茜さんは、猫探索が趣味という。「きょうは15分ぐらいで8匹撮影しました」。スマートフォンには、市場周辺の猫たちの奔放な姿が収められていた。
「ここの猫の魅力は自由さですね。可愛がってもらっているのがわかるので、うれしくなります」(屋宜さん)
「one」の女性店主に店名を確認すると、こう返した。
「セレクトショップ・ワンです。猫飼ってるけどワンですね」
1日3回のエサやりの際、店先に来るのは主に5匹という。
那覇で暮らしていた20年ほど前、筆者は桜坂の飲み屋によく通った。トタン屋根に板塀の小さな飲み屋。カウンターには、ラジオが1台置かれ、午前零時の開店から明け方までずっと、NHKの「ラジオ深夜便」が流れていた。明け方にぼんやりした頭で外に出ると、店先で痩せこけた猫たちとよく目が合った。
あのときの猫の子孫もいるのだろうか。そう思うと、セレクトショップ「one」の前を、いつまでも立ち去り難かった。
【本稿は8月27日発売の『NyAERAみっけ』(アエラ増刊)より「マチグヮーでぶらり『猫たどり』」「沖縄看板猫だより」の一部を転載しました】
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