近年の建設業界の動向と「新時代沖縄」
そして、前回の2014年知事選における建設業界の対応は、この変化が如実に現れたかたちとなった。組織的には「推薦」と「支持」を同時に出すという異例の対応であったが、この動きは、それぞれの支持層と重なっていた。仲井眞弘多氏「推薦」の背景には、基地受注も含めた大型公共事業を受注する國場組などの県内大手ゼネコンが、下地幹郎氏「支持」の背景には、同族グループである大米建設を中心とする建設業者が、そして、翁長雄志氏を独自に支持したのは、上述した金秀グループや照正組など公共事業依存から脱却しようとする建設業者が、それぞれ支持基盤として存在していた。
その後、2017年10月の衆議院議員選挙では、公示後にメールで投票依頼を出し、選挙違反が問われるような動員のあり方が取りざたされた(『琉球新報』2017年10月26日)。これは一種の揺り戻しと言えるが、今回の知事選の結果は、もはやこのような動員が機能しないことを示しているのではないだろうか。出口調査が如実に表していた通り、旧来型の政治・経済構図を支えてきた自民党や公明党支持層でさえ、2割以上が玉城氏に投票したのである。このことの歴史的な意味を、掘り下げて考える必要があるだろう。
また、経済団体の多くは、佐喜眞氏を「推薦」し、建設業界も同様の動きをみせていたが、経済界の動きも一枚岩ではなかった。「組織対応なし」が前回知事選の3団体から5団体となり、沖縄県経営者協会の「推薦」決定が遅れるなど、組織戦を徹底しているとされながらも、足並みの乱れが出ていたのである(『琉球新報』2018年9月7日)。加えて、上でみたように、今回は「推薦」を決めていた建設業界も、内部では玉城氏を支えるグループや企業を抱えており、自民党支持はもはや自明ではない。
今回の選挙結果では、玉城氏に対する無党派層や女性からの支持の多さに注目が集まりがちだが、経済界の歴史からみたとき、従来の政治・経済構図が、持続的に、かつドラスティックに変化していることが読みとれるだろう。玉城新知事が提示した「新時代沖縄」のありようは、今後の沖縄経済のビジョンと密接に関わっており、経済界の変化もそれに大きく影響を与えていくと考えられる。「新時代沖縄」が、沖縄の政治・経済構図をどう変えていくのか、今後も目を離せない。
*照屋氏の証言については、本論で取り上げた琉球政府研究会編『戦後沖縄の証言』(JSPS科研費15K03283科研成果報告書、2018年)や河野康子・平良好利編『対話沖縄の戦後:政治・歴史・思考』(吉田書店、2017年)を参考にしてほしい。