石垣住民投票裁判の判決(8月27日)を控え~裁判の経緯と争点の整理

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2.裁判

裁判は、石垣市平得大俣地域への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票実施義務付け等請求訴訟の提起、つまり裁判所に石垣市が住民投票を実施しないことが違法であることの確認を求めること及び裁判所が石垣市に対し住民投票の実施義務の履行を求めるもの、そして同内容の仮の義務付けの申し立てである。仮の義務付けの申し立てとは、行政訴訟事件法第37条の5に定めるもので、義務付けの訴えの提起があった場合に、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずるものである。

仮の義務付けは、通常、緊急性を要するということから当事者やその他の利害関係人に対し非公開で審尋を行い、結論を出した後に本案の裁判の期日を設定することが多いが、本裁判においては、仮の義務付けにおける審尋は行わずに、本案の裁判の結論を出すこととなった。原告側は訴状のほか主張立証のための書面である合計7通の準備書面を提出した。被告側は、訴状に対する答弁書のほかは、準備書面を2通提出しただけであった。コロナ禍の影響で4月14日予定であった第4回口頭弁論が6月9日に延期されて結審し、判決言い渡し期日が8月27日午前11時30分と指定された。以下、争点及び原告と被告の各主張の主要点を簡単に整理する。

3.入り口論

原告らは、石垣市自治基本条例28条1項は「市民のうち本市において選挙権を有する者は、市政に係る重要事項について、その総数の4分の1以上の者の連署をもって、その代表者から市長に対して住民投票の実施を請求することができる。」と定めており、その要件を満たした請求を行ったものであるという主張を行った。これに対し、被告である石垣市は、市民による住民投票の請求には入口が二つあり、原告らの請求は、石垣市自治基本条例28条1項によるものではなく、地方自治法74条1項の条例制定改廃請求手続きに基づくものであり、議会が条例案を否決した以上、原告らの請求の効力は失われたという主張を行った。原告らは、石垣市自治基本条例制定の際に作成した逐条解説は、同条例28条1項について、「地方自治法74条(住民の条例制定改廃請求権に基づくものの1つ)」と解説しているとおり、自治基本条例28条1項に基づく住民の住民投票の直接請求は、地方自治法74条1項に基づいた住民による条例制定改廃請求の手続きに沿った方法で行うことが想定されているものと解すべきであり、原告らの請求は石垣市自治基本条例28条1項の要件を満たしたものといえる。つまり入口は一つであると反論した。

4.所定の手続き

次に、石垣市自治基本条例28条4項は、「市長は、第1項の規定による請求があったときは、所定の手続を経て、住民投票を実施しなければならない。」と定めるが、その「所定の手続き」が争点となった。被告の主張は、「所定の手続き」とは議会の可決であり、仮に原告らの請求が自治基本条例に基づくものだとしても議会で条例案が否決された以上、原告らの請求権は消滅したというものであった。

これに対して原告側は、この「所定の手続き」は、規則の制定など住民投票実施のための通常必要となる裁量を伴わない手続きを定めることであると解すべきであると主張した。これは、石垣市自治基本条例制定過程における当初の素案では、地方自治法74条1項を準用しただけであったものが、市民検討委員会から50分1では請求することに留まることから、これを厳しくし、その要件を満たした請求があったときは、住民投票を実施しなければならないとすべきという修正意見があり、その意見が採用されたという立法経緯からも明らかである。地方自治法74条1項の住民の直接請求の要件である50分の1を4分の1と著しく厳しくし、さらに「所定の手続き」に議会の可決が必要とするような被告石垣市の解釈は、地方自治法で定めた住民の権利を著しく制限することとなり、「法律の範囲内で条例を定めることができる」とする憲法94条に明らかに反する。つまり、石垣市自治基本条例28条1項の要件を満たした住民投票の請求に対して、石垣市議会が原告らの条例の制定請求について否決したとしても、石垣市自治基本条例28条4項に基づいて、住民投票を実施しなければならない義務があると解すべきであり、議会の決議に基づいた個別条例という形式でなくても、市長が定める規則等によりその義務の履行が可能であるとして、原告らが求めた条例案を基に市長が制定すべき規則案も作成し示した。

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