石垣住民投票裁判の判決(8月27日)を控え~裁判の経緯と争点の整理

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昨年9月19日、沖縄県石垣市の市民30名が那覇地方裁判所に提訴・申し立てをした「石垣市平得大俣地域への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票実施義務付け等請求及び仮の義務付けの申し立て」につき、8月27日の午前11時30分に判決が言い渡される。住民投票の義務付けを求める裁判は全国でもはじめてであるが、県紙も含め報道が少ないこともあり、この問題について正確に理解されていないと感じることも多く、判決を前にこの裁判の経緯と争点を整理したい。

1.経緯

石垣島への陸自配備計画は、南西諸島の防衛強化を目的とする中期防衛力整備計画に基づくものである。同じ八重山諸島で石垣島から西に約127キロ離れた与那国島には、2016年3月に160人規模の沿岸監視隊が配備された。石垣島は、与那国島を後方支援する最前線の実力部隊との位置づけという。2015年6月、防衛省沖縄防衛局は中山義隆石垣市長に「陸上自衛隊配備候補地選定の現地調査に入る」ことを伝達、調査結果を受け、同年11月、若宮健嗣防衛副大臣が中山市長を市役所に訪ね、島中央に鎮座する県内最高峰の於茂登岳のふもとに位置する石垣市平得大俣地域を候補地とすること、警備部隊と地対空・地対艦のミサイル部隊で規模は500-600人程度になることなどを説明し配備計画内容を初めて明らかにした。それから1年後の2016年12月、中山市長は「手続きを進めないと詳細が分からない」として配備に向けた諸手続きの開始を了承する。しかし、その後、市長は「受け入れ表明ではない。受け入れ可否の最終判断は適切な時期に行う」、「賛成、反対双方の意見を聞いて総合的に判断する」との発言に終始する。陸自配備の是非が最大の争点となった2018年3月の市長選でも、中山市長は、陸自配備問題には一切触れず争点化を避け、報道機関の質問には前述の内容をくり返していたという。そして2018年7月、中山市長は、陸自配備に向けた協力体制を構築し、手続きを進めるという正式な受け入れ表明を行う。

配備予定地4地区の自治会も加わる「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」からは「言葉のまやかし」、「やり方が姑息」等の批判が、配備を認めている市民からも「やり方が気にくわない」等の批判が出たという。そして何より、2018年10月1日施行の改正県環境影響評価条例(県アセス条例)の改正により、の陸上自衛隊配備候補地に適用され、アセスが実施されるとこの間は工事ができなくなり、配備計画に大幅な遅れが出るので、その適用を逃れるため2019年3月31日以前に実施した事業について適用されないという経過措置に間に合うよう急いだことが批判されている(詳細は八重山毎日新聞記者比嘉盛友https://okiron.net/archives/734等を参照されたい)。

そのような状況のなか、2018年10月13日、石垣市住民投票を求める会(金城龍太郎代表)が発足した。同会は農業青年ら若者たちが中心となり、各世代の大人たちがそれを支えるというかたちで、同年10月31日から1か月間で石垣市自治基本条例28条1項が定める住民投票請求の要件である有権者の4分の1(25%)を優に超える実に3分の1以上(37%)の1万4263筆という数の石垣市民の有効署名を集め、2018年12月20日、市長に対し、住民投票条例制定請求を行った。しかし、市長は、2019年2月1日市議会がその条例制定請求を否決(10対10の可否同数となったが、平良秀之議長の裁決で否決)したことを理由に住民投票を実施しようとしない。石垣市の自治基本条例(平成22年4月1日施行)は

第28条(住民投票の請求及び発議)で、

【第1項】「市民のうち本市において選挙権を有する者は、市政に係る重要事項について、その総数の4分の1以上の者の連署をもって、その代表者から市長に対して住民投票の実施を請求することができる。」 【第4項】「市長は、第1項の規定による請求があったときは、所定の手続を経て、住民投票を実施しなければならない。」

と定めている。当初、会のメンバーも自治基本条例28条1項に基づく住民投票請求のための方法や手続き等を定めた石垣市住民投票条例やその施行規則が不整備であり、本来石垣市は、早急に整備をする義務があるがそれを行わない。したがって、地方自治法74条1項(「普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者は、政令で定めるところにより、その総数の50分の1以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の長に対し、条例の制定又は改廃の請求をすることができる。」)に基づく条例制定請求の方法に依らざるを得なかったもので、自治基本条例28条1項の定める4分の1以上の署名を集めた以上、同条4項の趣旨からも議会が否決するのは不当だという認識であった。署名は議会の否決により効力を失ったが、自治基本条例の趣旨に基づき議会は住民投票条例案を可決すべきだという主張だ。報道も行政法の専門家も同様の論調であった。

当初、拙者も同様に考えていた。しかし、石垣市が積極的に示してこなかった石垣市自治基本条例制定時の石垣市の認識を示した逐条解説があることを発見し、その内容を確認したところ、1万4千を超える市民の連署による住民投票条例制定請求はまだ生きており、議会が否決したとしても、市長は住民投票を実施しなければならない義務があるという確信を得た。そこで、本サイトや八重山毎日新聞でその旨を主張した。会のメンバーにも「署名はまだ生きている」とその説明を行い、徐々に理解していただいた。

会のメンバーは市長に面談を求め、その旨を伝え住民投票の実施を要求する。住民投票を求める市議も、議会で市の見解を問うた。しかし、市長も企画政策課長も、今回の住民投票請求は自治基本条例に定める住民投票の請求ではなく、地方自治法に基づく住民投票条例制定請求であるとして、議会が否決した以上、住民投票を実施しないことは違法ではないとして頑なに住民投票を実施しない。そこで、住民投票を求めた請求代表者及び署名者30名は、この問題について理解し賛同してくれた大井琢弁護士と中村昌樹弁護士の協力を得て、2019年9月19日に、最後の手段として裁判に踏み切った。私は、原告弁護団の事務局長という立場である。以上が裁判に至るまでの大まかな経緯である。なお、2019年12月に、石垣市議会与党市議は原告らが住民投票を求めた根拠である石垣市自治基本条例自体を廃止する議案を提出した。これはかろうじて否決されたが、これも極めて問題であった。その問題点については、拙稿(https://okiron.net/archives/1630)を参照していただければ幸いである。

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