北摂から全国へ―「遺骨土砂問題」意見書採択への取り組み

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まとめと今後の展望

6月議会では、金沢市・茨木市・吹田市・小金井市・奈良県議会での意見書採択が実現した(各地での取り組みについては、こちらのオンライン番組や、こちらのサイトも参照)。共同通信が配信した結果、全国の地方新聞でこの動きが取り上げられることになり、ようやく「遺骨土砂問題」への全国的認知が広まり始めたと思う。この動きを知った記者の方が、「遺骨土砂問題」について取材したり、関係する大臣に質問したりすることで、国政レベルでの実質的変化が起き始めれば嬉しい。

強調したいのは、今回の動きが決して議会内部で完結したものではなかったことだ。意見書採択が実現したところは全て、「遺骨土砂問題」に問題意識を持った超党派の市民による運動と、それを基点とする議会・地方政府の応答・共働があった。党派やイデオロギーの差に縛られず、自分の生活と結びつけた形で「遺骨土砂問題」を考える市民が繋がれたからこそ、全会一致や圧倒的賛成多数での意見書採択が実現したのだと思う。

ただ、この結果に満足する訳にはいかない。社会問題は議会のスケジュールと関係なく継続するし、いくつかの自治体で意見書採択が果たせたからと言って、辺野古新基地建設強行という根本的な問題が解決するわけではない。

この記事を締めくくるに当たり、今後必要なことを列挙したいと思う。

  • 6月議会で意見書採択に至らなかった所では、9月議会での採決に向けた動きを作りたい。北摂地域でも、直接足を運べなかったり、広汎な市民運動を作れなかったことが理由で、議案上程にすら至らなかった場所もある。「安全保障は地方議会の議題として不適切だ」との反対意見もあったと聞くから、「遺骨土砂問題」が全国で取り組むべき人道上の問題だという認識を広める努力が必要だ。同じ取り組みが日本全国で同時多発的に起こることも期待したい。
  • 茨木市・吹田市で採択された意見書は、あくまで「辺野古」への言及を避けた、いわば「採択のための最大限の妥協の産物」である。辺野古新基地建設自体を止めるためには、いつまでも「辺野古」への言及を回避するわけにはいかない。「辺野古新基地建設自体が許されない」との市民的合意を形成し、それを正面から示す意見書採択を実現するために、さらなる努力が必要だ。
  • 意見書採択が実現した、或いは逆に意見書採択が絶望的であることが判明した自治体でも、市民主導の勉強会や街頭宣伝などの取り組みを絶やさないようにしたい。そのためには、多くの市民の方々に、沖縄との繋がりを日常生活レベルで感じられる工夫が必要だ。例えば線状降水帯に伴う豪雨が全国的な話題になっているから、沖縄の土砂採取現場からの土砂海洋流出を学ぶ会を開くことなどが可能だと思う。先日、PFOS・PFOAによる水質汚染は米軍基地周辺に限らず全国の問題であることが報道されたし、沖縄・奄美の世界自然遺産登録もあったので、環境問題・SDGsの観点から沖縄と地元を繋げて考えることも可能そうだ。ちなみに、茨木市の隣町・摂津市では全国最悪のPFOA汚染が報告されているが、そのような自治体で「PFOS・PFOAによる健康被害の調査・賠償を求める意見書」採択を目指す運動を作り、その過程で沖縄のことを考えて頂く、というやり方も出来そうだ。
  • 夏休みに入れば、各地で「戦争と平和展」が開催され、戦争報道も増えるはずだ。その機会を逃さないようにしたい。私も北摂地域での「戦争と平和展」で沖縄戦遺品の展示や、「遺骨土砂問題」に関する展示、意見書採択に至る過程の報告を行うことで、さらなる発信に努めるつもりだ。
  • 請願権は憲法第16条が保障する権利であり、学生でも意見書採択を目指す運動の担い手になれる。この運動を平和教育・主権者教育の現場に繋げるなどの努力もしてみたい。
  • オンライン署名(「遺骨土砂問題」に絞ったもの辺野古新基地建設反対のための国際的協力を目指すもの沖縄県知事の辺野古埋め立て不承認を支持するものなどがある)への参加を呼びかけ続けるだけでも、変化の種にはなると思う。一人一人が出来るコミットメントの質・量は違うので、多様な参加形態の提案を続けたい。

「地方自治は民主主義の学校だ」と言われる。自ら地方自治・国民主権の担い手として活動する中で、たった一学生でも社会を動かすために出来ることが多いこと、そして変化を起こすために頭と手足を動かすことが大きな充実感をくれることを実感することが出来た。

市議会議員の方々と繋がり、市政がブラックボックスではなくなった。市民の声を市議会に届ける方法を学ぶことが出来たし、市議の方々が日頃市民のためにどれだけ働いて下さっているかを知ることも出来た。「遺骨土砂問題」意見書採択への協力と並行して、ワクチン摂取の効率化・生活保障の拡充など様々な課題に奔走される議員の方々の日常を垣間見、市議の方々が縁遠い存在ではなくなったし、市政や市議会議員選挙への関心も格段に高まった。

全国各地で市民運動に取り組む方々との繋がりも増えた。正直、「遺骨土砂問題」については、意見書採択が叶わない自治体の方が多いと思う。実際、「地元で否決された」「地元では議会運営委員会に議案を出すことすら出来ない」という声も少なからず聞いた。街頭宣伝も、正直無視されることの方が多いと思う。しかし、オンラインであっても成功例・失敗例両方を共有しあうことで、少しでも実質的変化に繋がる運動のあり方を見つけられるだろうし、無力感・徒労感に苛まれることを防げると思う。

日本の地方政府の支出は他の先進民主主義国と比較しても相当大きく、それがカバーする領域も相当広い。国が独占するのは年金・防衛だけである (北村亘・青木栄一・平野淳一『地方自治論』 (有斐閣ストゥディア), pp.137-138)。つまり、立憲主義・民主主義の実現のため、地方自治が出来ることはとても多いのである。そんな地方自治の担い手として、自らの持つ大きな力を最大限活用出来るよう、これからも努力を続けるつもりだ。

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