北摂から全国へ―「遺骨土砂問題」意見書採択への取り組み

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6月議会が終わり、地方自治体から「遺骨土砂問題」に関する意見書をあげる動きの成果が見え始めた。私も地元・北摂での運動に関わり、茨木市吹田市では意見書採択を実現することが出来た。この流れがようやく全国メディアでも報じられるようになり、北摂でどのように意見書採択を実現したのか教えて欲しいと頼まれることも増えた。

そこで、この記事では私たちが北摂でどのように運動を展開したかを共有したいと思う。9月議会に向け同様の動きを地元でも起こしたいと考えている方にとって、何か参考になることがあれば嬉しい。

意見書採択運動の開始

私が地元での意見書採択を目指す運動を始めたのは4月初頭である。オンライン学習会「若者、ガマフヤーと語る」にて、具志堅隆松さんから若者が直接行動を起こすことの重要性を説かれたことが契機だ。「辺野古新基地建設を止める新しい提案」の先例と、沖縄の複数自治体の3月議会で既に遺骨の染み込んだ土砂を用いた新基地建設中止を求める意見書が採択されていたことも参考になった。

市民運動の作り方や、議会の方々との交渉の仕方など、最初は判らないことばかりだったので、地元の労働組合「サポートユニオン with You」の方々に相談を持ちかけた。地元で毎夏開催されている「子どもたちと考える『戦争と平和』展」を通して知り合ったユニオンの皆さんは、毎月19日阪急茨木市駅・JR茨木駅前で「総掛かり行動」を主催するなど市民運動の蓄積が豊富で、市役所・市議会議員の方々との繋がりも深いからだ。

ユニオンの皆さんには、具志堅さんたちが「遺骨土砂問題」を日本全国で取り組むべき人道上の問題だと訴えていらっしゃること、沖縄島南部の土砂には大阪から動員された日本兵の遺骨も含まれていることなどを説明した。

辺野古新基地建設反対を正面切って訴える意見書採択は難しくても、「遺骨を用いた基地建設は人道上許されない」との合意は取れるはずだ。そんな共通認識を作ることが出来、茨木での運動が始まった。

市民の認知向上を目指す取り組み

茨木市議会で意見書採択を実現するためには、議員・市役所の方々に「何故茨木市が『遺骨土砂問題』に取り組まなければならないのか?」を説明しなくてはならない。説得力を増すためには、多くの市民が「遺骨土砂問題」について知り、当事者意識を持っていると証明することが鍵になる。

ヤマトのメディアによる具志堅隆松さんのハンストの報道が少なく、市民の側も沖縄で起こっていることは概して「沖縄問題」として等閑視しがちなので、まずは市民の無関心を打破しなければならなかった。

そこで、4月24日、ドキュメンタリー「ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記」の上映会を開催した。ただ映像を流すだけではなく、その後坂本菜の花さんからのメッセージを読み上げ、私から「遺骨土砂問題」についての説明を行った。

上映会のチラシ

ドキュメンタリーには、基地の一極集中のせいで起こる問題に翻弄される沖縄の実情と、その中で暮らすウチナーンチュの方々の肉声、さらに那覇のフリースクールに通う中で「沖縄で起こる問題は実はヤマトが作り出し、押しつけている問題だ」と気づいていく菜の花さんの歩みが凝縮されている。

「たった3年の沖縄生活です。話せることは多くありません。しかし、されど3年でした。私がその間にみたことは、私が生まれる前から脈々と続いてきたことでした。そして今日の、戦没者の遺骨が混じった土砂を新たな基地の埋め立てに使うという問題につながります。(中略) 現場は、みなさんが暮らしていらっしゃる茨木です。(中略) この会場を出られるとき、みなさまも今日感じられたことをお持ち帰りくださると嬉しいです。」

菜の花さんが上映会のため特別に寄せてくれたメッセージを読み上げたとき、観衆の方々の間に、沖縄と自らとの関わりを考え葛藤する菜の花さんへの共感と、沖縄で起こる問題への当事者意識が芽生えたと実感できた。

私からは「遺骨土砂問題」について、特に茨木市民との繋がりを強調してお話しした。いきなり「私たちは沖縄で起こる問題の加害者である」と言っても、納得しない人は少なくない。そこで、次の2点を意識した語りを行った。

一つは、沖縄戦の歴史と向き合う中で、私自身がどのように「日本社会の構造は、沖縄を犠牲にすることを前提に出来上がっている」との実感を持ったかをお話することだ。私自身、沖縄への修学旅行で遺骨・遺品収集家の国吉勇さんと出会うまで、沖縄戦の歴史にも、構造的沖縄差別の問題にも全くの無知だった。自分の無知・無関心を反省し、沖縄戦が本土防衛のため沖縄を捨て石にするものであり、その構造は「安全保障」の名の下で基地を沖縄に押しつける現在のヤマトに引き継がれていると気づく過程を赤裸々にお話しすることで、市民の方々にも「沖縄についてもっと知り、考えなければならない」と思って頂けるように努めた。

もう一つは、「遺骨土砂問題」と市民の生活苦との繋がりを説明することだ。「4月21日、具志堅さん・沖縄戦遺族と国との直接交渉において、遺骨収集事業を管轄する厚生労働省は防衛省による業務妨害に抵抗できていない実態を曝した」と強調し、「厚生労働省が体たらくだからこそ、コロナ対応・社会保障など現在の市民の生活苦がある」と訴えた。仮に「沖縄に対する加害者」としての当事者意識を持てなくとも、少なくとも「体たらくな厚生労働省の被害者」という点で沖縄への関心・共感を呼び起こすことが出来るのではないか、と考えたからだ。

上映会に先立ち、「サポートユニオン with You」の皆さんと茨木市議会事務局を訪れ、各会派に上映会への参加のお願いを行っておいた。その日来庁されていた議員の方々とは直接面会し、意見書採択を目指して運動を始めたこと、そのための市民運動の出発点である上映会に足を運んで欲しいことをお伝えした。実際数名の議員の方々は上映会に来て下さったし、少なくとも意見書採択を目指す市民運動が出来はじめていることを議員各位にお知らせすることは出来た。

上映会当日配付した資料には、意見書採択を求める陳情書の文章案(4月に出した「遺骨で基地を作るな!緊急アクション!」の(5)で公開中)を載せ、「6月議会での採択に向けて早急に市民運動を始めたい」と訴えた。

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