問題は日米地位協定なのか?【その1】地位協定以前の問題

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地位協定以前の問題

 

20151月に米国務省が公表した「地位協定に関する報告書」は、率直にその理由を記している。

報告書によれば、米政府内で地位協定の問題を扱うのは、国務省と米国防総省・米統合参謀本部だが、もともと両省とも、地位協定の担当部署の人員はごくわずかしかいなかった。担当に任命されるのは長年のキャリアを積んだ専門家だが、2、3年で配属が変わるので、引き継ぎがきちんとなされない状態が続いてきた。

しかも、地位協定に関わる問題が起きたとき、米軍を受け入れている国との最初の窓口となるのは現地の大使館だが、国務省は地位協定に関する経験を積ませないまま、各国大使館に人を派遣してきた。したがって、大使館の人間は地位協定に関する知識がなく、政策上の優先度も低く見ている、と報告書はいう。

 

トランプ政権の政治任用遅れや国務省冷遇

 

こうした環境をさらに悪化させているのが、20171月に発足した米国のドナルド・トランプ政権における、政治任用される政府高官の任命遅れや、国務省の冷遇および本来の職務を無視した大統領令だ。

国防総省で地位協定を担当するのは政策担当国防次官だが、ジョージ・W・ブッシュ政権で国務次官補や国務次官代行を務めたジョン・ルードが、トランプ政権の政策担当国防次官に任命されたのは201819日だった。約一年間、地位協定の担当者が不在だったことになる。

他方、国務省で、国防総省とのやりとりも含めて地位協定の問題を扱うのは政軍局である。オバマ政権期から政軍局を統括してきたティナ・カイダナウ国務次官補代理が、トランプ政権になっても留任した。

だが、トランプ大統領は、国務省の人員を大幅に縮小することで同省予算を削減し、その分を国防予算にあてる方針をとっている。レックス・ティラーソン国務長官は、トランプの方針にしたがって、国務長官への助言を行う政策企画局(PPS)に人員を集中し、そのほかの部署の人員のリストラを進める「改革」に邁進してきた(くわしくは、山本章子『米国アウトサイダー大統領』朝日選書、2017年)。

そのため、政軍局も含めて、通常業務を満足に行えない状況にあることは想像に難くない。

その上、トランプは2017年後半に入ると国務省に武器の売り込みを命じ、20182月には「国家安全保障決定令」で正式な命令を出すことになっている。カイダナウは201711月にはすでに、米武器メーカーとの打ち合わせや、米製武器の売り込みのための韓国・フィリピン訪問を始めている。             

 

日米地位協定を含め、地位協定の問題に関する引き継ぎをきちんと行っていない米政府が、日米間の過去の合意を守らないのはある意味、当然の帰結といえよう。日本政府は繰り返し、過去の合意を米側に周知し、その遵守を求めるところから始めなければいけないのだ。

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