日米地位協定はドイツ、イタリアよりも不平等?
日本と同じ敗戦国のドイツ、イタリアの米軍地位協定と比べて、日米地位協定は一方的に日本側が不利な内容になっている、という議論がある。
ドイツ、イタリアを含めた北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、米国の同盟国の中で例外的に、「互恵性」のある米軍地位協定を結んでいる。互恵性とは、同盟国が互いに法的に対等な関係にあるということで、そのため、NATO諸国に駐留する米軍には駐留国の法律が適用される。
たとえば、1998年のイタリアで、低空飛行訓練中の米軍機がロープウェーのケーブルを切断し、20人を死亡させた事故が起きた後、イタリア政府は「国内法」の改正によって米軍機の低空飛行訓練を禁止した。
これはあくまで、NATO地位協定のみの話だ。なぜ、NATO諸国だけが、互恵性のある地位協定を米国と結んでいるかというと、米国並みの民主主義的かつ人権を尊重した国内法を有していると、米側から認められているからだ。
翻って、日本はどうか。国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルは、安倍晋三政権に対して繰り返し、国内人権機関の設置、死刑制度の廃止、ヘイトスピーチやアイヌ蔑視に見られる人種差別への対応などを求め、対応しないことを批判してきた。また、国連自由権規約委員会は、日本の代用監獄制度や取り調べの際の強制自白などを強く批判している。
つまり、日本は国際社会から、民主主義度の低い国だと見られているのである。ドイツやイタリアのように、米軍訓練の規制や基地周辺の環境保護などが可能な日米地位協定を求めるのなら、日本はまず、欧米並みの民主主義的な制度や法律の整備から始めなければいけないのだ。
「NATO並み」の刑事裁判権
1960年の日米安保改定後、日本政府はずっと、日米地位協定は「NATO並み」だと主張してきた。
実は、日米地位協定において、本当に「NATO並み」だといえるのは、刑事裁判権について規定している第17条である。ただし、「NATO並み」に日本に有利な内容ということではなく、「NATO並み」に不平等なものとなっているという意味だが。
NATO地位協定と日米地位協定では、犯罪が基地の内外のどちらで起きたかに関係なく、加害者が米兵・軍属で、①米国とその財産に対する犯罪、または②被害者が米兵・軍属の場合、あるいは③軍務遂行中に行われた犯罪については、米国に一次裁判権を認めている。また、それ以外の場合には、米軍を受け入れている国に一次裁判権を認めている。
だが、実際には、米軍側が「加害者は軍務遂行中だった」と主張した場合、受け入れ国は大抵、それを認めざるをえない。
また、お互いに、裁判権についての相手国からの要請に「好意的配慮」を示せば、自国の裁判権を放棄して相手国に譲ることが可能だとされている。米軍はこれまで、世界中のほぼすべての米兵犯罪において、受け入れ国に裁判権放棄の圧力をかけてきた。
そのため、現実には、米兵は母国で裁かれることが多い。
さらに、オランダやギリシア、西ドイツのように、米国との個別協定であらかじめ、一次裁判権を一括放棄するよう取り決めている場合もある。(西ドイツはその後、統一ドイツになってから、米兵・軍属が「重大犯罪」を起こした場合には、ドイツ側が裁判権を放棄しなくてよいように協定を改定した。)