日米安保体制の中で考える「辺野古」
シンポジウムは、ワシントン市内のホテルで行われ、三部構成からなっていた。当日の朝、トランプ大統領によってティラソン国務長官が解任されたというニュースが報道され、何人かのメディア関係者が来られなくなってしまったそうだが、会場にはシンクタンクや大学、メディア、政府関係者など百人あまりが出席した。
まず第一部では、翁長知事の基調講演が行われた。翁長知事は、「自分は日米安保体制を理解している」と強調した上で、沖縄への基地の過重負担の歴史を説明し、日本国内における基地負担の不公平さを是正する必要性を訴えた。そして近年の東アジアの国際環境の激変を踏まえ、辺野古移設計画が見直されるべきであることを強調した。特に翁長知事が強調したのが、辺野古移設の工事はすでに3年遅れており、このままでは完成には十年以上かかり、その間に移設計画が前提としていた国際環境も変わるのではないかということであった。
第二部では、ペリー元国防長官の基調講演が行われた。ペリー氏は、沖縄の米軍基地、特に普天間基地が朝鮮半島有事への即応のために重要であり、北朝鮮が非核化すれば普天間をはじめ沖縄米軍基地の必要性がなくなるが、その道のりは長いと述べた、ペリー氏は、最近の米朝首脳会談開催の可能性から、自身が国防長官だった90年代の朝鮮半島危機の教訓についての説明に多くの時間を割いた。
第三部では、マイク・モチヅキ・ジョージワシントン大学日米関係研究所長をコーディネーターに、ハルぺリン氏、リック・ヘギンボッサム・マサチューセッツ工科大学国際問題研究所研究員、筆者によるパネル・ディスカッションが行われた。
まず、ハルぺリン氏が、自身の沖縄返還交渉での経験を述べ、米国政府が沖縄返還を受け入れたのは、沖縄の反発が日本全体に広がったことで日米同盟の危機を避けるためであったと述べた。その上で、沖縄返還後、基地が大幅に減ると予想していたが今も巨大な米軍基地が存在していることは驚きであること、これは日本政府が沖縄米軍基地削減をあまり重視してこなかった結果だと論じた。ハルぺリン氏は、沖縄基地問題の解決策として、日本本土の民間施設や自衛隊との基地の共同使用を提案していた。
次に筆者(野添)は、現在も沖縄県内で辺野古移設反対意見は強く、したがって辺野古移設の強行はかえって沖縄で基地反対論を強め日米同盟に危機をもたらすと述べた。さらに歴史的にも、軍事的観点から反対論がある中で1950年代に日本本土から沖縄に海兵隊が移駐し、1970年代には海兵隊の沖縄撤退論がアメリカ政府内で検討されるなど、米軍、特にその大部分を占める海兵隊にとって沖縄は軍事的に最善の場所ではなかったことを説明した。その上で、沖縄米軍基地の削減のため、沖縄の基地の本土への移転や自衛隊と米軍の基地の共同使用に加え、モチヅキ教授やジャーナリストの屋良朝博氏ら新外交イニシアティブ(ND)が提唱する、在沖海兵隊の移転・撤退による辺野古移設の代替案を真剣に検討すべきだと主張した。
ヘギンボッサム氏は、中国の軍事力増強を背景に、沖縄の基地の重要性は変わらないとした上で、中国の軍事力増強への対応策を挙げるととともに、沖縄への米軍基地の過重負担の解決策として米軍と自衛隊の基地の共同使用や民間施設の利用を提起した。
フロアからは、それぞれのセッションに対し、翁長知事の辺野古移設反対は普天間基地返還を遅らせてしまうのではないか、といったコメントや、名護市長選挙の影響、憲法改正の沖縄への影響、日本政府は沖縄米軍基地の本土移転の意志はあるのかといった質問がでた。【「下」に続く】