「普天間返還合意」とは、結局何だったのか⑥完

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「敗戦国だから言えない」

 

現政権、特にこの問題を主導している菅義偉官房長官からすれば、一度は手厚い振興策を盛り込んだ水面下における交渉によって、仲井真弘多・前知事から辺野古沿岸の埋め立て許可を得ることにこぎ着けた。

しかし、あまりに露骨に見えた振興策との引き替えは、「(沖縄は)カネを積めば納得するという印象を発信したとすれば取り返しのつかない罪だ」(照屋義実・沖縄県商工会連合会会長)といった県民の猛反発を引き起こし、つづく知事選における仲井真の大敗と翁長雄志の当選となった。

新たに発足した翁長県政に対して、菅は徹底的にこれを無視する姿勢をとった。菅にとって、翁長との実質を伴う協議や妥協は、自らの政治手法の正しさを否定することであり、自身の権勢を瓦解させる「蟻の一穴」になりかねないと捉えたのであろう。菅にとっても、事態は引くに引けないものとなったのである。

官房長官として、記者からの質問を手際よくさばく姿が印象的な菅だが、よく見れば定型句を繰り返すことによって、実質的な説明を怠っているに過ぎないようにも見える。その菅が、普天間・辺野古問題について漏らした肉声が、仲井真を本人の側から描いたノンフィクションに記されている。

菅は仲井真に対して、「日本は米国に戦争で負けたんです。だから米国には言えないこともある」「だからこそ、安保法制の整備や日米の防衛協力を進めて米国と対等の関係を築き、沖縄についても米国にものを言えるようにしていかないといけないのです」と語り、その率直な物言いが仲井真の印象に残ったという(竹中明洋『沖縄を売った男』〔扶桑社、2017年〕190頁)。

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