歪みの構造の根源をあばく~古関彰一・豊下楢彦著「沖縄 憲法なき戦後」を読み解く

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憲法排除の論理

 

本来米国は本土を核の戦略拠点や海兵隊の拠点にする方針であったが、反基地・反米運動に直面して、「憲法なき」沖縄に拠点を移し大規模化することになった。

53年の奄美返還に際して、沖縄の長期支配を根拠付ける論理として「ブルースカイ・ポリシー(東アジアに雲一つなく空が青くなるまで米国は沖縄を支配する)」が提起される。これに対し、56年の日本の国連加盟は、憲章7778条に照らしてその根拠を揺るがし、3条失効論も強く主張されたが、57年の日米共同声明に定式化され、以降の日米関係を拘束する。著者たちは、この論理にのって沖縄返還が凍結され、本土政府も野党もメディアも、沖縄の核基地化、排他的軍事的必要性を容認してきたと指摘する。

すでに国際法上の根拠が薄弱であった3条は、60年の国連の植民地独立付与宣言によって、その前提が崩壊した。なぜなら、植民地独立の趨勢は信託統治制度の終焉をもたらしたからである。特筆すべきは、これを最も鋭く指摘したのが元首里市長の仲吉良光や早稲田大学総長の大濱信泉らの在京沖縄人だったことである。しかし、当時の与野党も、沖縄返還交渉における佐藤政権もこれを主張せずに、復帰後も様々な「密約」により米軍支配の実態は維持された。

つまり、沖縄が軍事植民地となっていくプロセスは、軍事の論理ではなく、現在まで続く「憲法排除の論理」によってなされてきたというのだ。本書のこの主張は、保守のみならず、革新・リベラルにも衝撃をもって受け止められるべきであろう。

 

沖縄に基地を置き続ける論理

 

本書は終章で、ブルースカイ・ポリシーからの脱却の方向性として、米中の狭間で翻弄される東アジアの国々が、沖縄を軸に、軍縮に向けた提携関係を構築するという新たな見取り図を提示する。

しかしながら評者は、その脱却のためにも、沖縄に憲法が正常に適用されておらず、「辺野古が唯一」と強行されている構造の根源に先ず向きあうべきだと考える。ブルースカイ・ポリシーの論理は、突き詰めると、右派にとっては「中国の共産体制がなくなるまで」だが、左派にとっては「日米安保が破棄されるまで」沖縄に基地を置き続けるということである。

その脱却のためには、本年9月、東京都小金井市議会に対し一人の在京の沖縄の青年が評者らの提案する「沖縄発 新しい提案~辺野古を止める民主主義の実践」(ボーダーインク.2018)に基づく陳情を行い、この構造的な問題(陳情は採択されたが、意見書の採択にあたり一部の政党の議員が党の政策は「在日米軍基地の全面撤去であり、国内に米軍基地を造ることを容認していると捉えかねない」として賛意を翻し、意見書に賛成しない意向を示した。同議会は今後12月定例会までに調整を図るとしているが、意見書を可決するかどうかは不透明)を可視化させたように、先ず沖縄に、「文明諸国に共通の最低基準」である自由や平等、そして平和的生存権を保障すべきなのである。

これは、実践する民主主義として、「『軍事的に沖縄でなくてもいいが本土の理解が得られない』という不合理な区分(差別)を止め、普天間基地の県外・国外移転を国民的議論で決める」ことにほかならない。 

沖縄はこれ以上歴史を繰り返すことを許さない。

沖縄の憲法なき戦後を外交文書のみならず、これまで検討されてこなかった膨大な国会議事録などを読み込み解き明かす本書は、新たな視点と重要な示唆を与える。沖縄の置かれた問題を考えるための必携の書である。

【本稿は10月19日付『琉球新報』より加筆転載しました】

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