「沖縄が平時ではない」ことを意味するのではないか
沖縄島南部での鉱山開発は、沖縄県の赤土等流出防止条例違反だと指摘されている。「令和2年度版沖縄県環境白書」を見れば、同条例の重点監視海域に指定されている沖縄島南部の大渡海岸は「目標未達成」とされている。このまま鉱山開発が進めば、赤土による海洋汚染はますます悪化するだろう。
環境破壊は沖縄島南部に留まらない。4月21日の具志堅氏らと国との直接交渉における質問事項でも指摘されているとおり、沖縄島南部から土砂を採取して辺野古に運ぶとなると、「土砂運搬のダンプトラックが、那覇市街地等の人口密集地を走り回る」こととなる。粉塵・騒音・振動などにより、都市公害が引き起こされるのは目に見えている。
採取した土砂の行き着く先である辺野古の海は、ジュゴン・アオサンゴなど多様で希少な生物に恵まれた生態系を誇る。辺野古・大浦湾地域では5806種の生物が確認され、うち262種が絶滅危惧種だったそうだ。2019年にはアメリカのNGO「ミッションブルー」によって、「ホープスポット」に指定されたが、同NGOはこれまで市民が行ってきた「実行可能な環境保護努力を通し、米軍基地と将来の開発から辺野古の海と生物を守る戦い」を祝福すると発表した。そんな海域を破壊する新基地建設は、「海の豊かさを守ろう」と謳った持続可能な開発目標 (SDGs)にも違反しているし、国際的な顰蹙を買うに違いない。
今更言うまでもないが、2019年2月24日の県民投票で明確に反対の民意が示された辺野古新基地建設を国が強行していること自体、憲法第8章が定める地方自治に反している。根本が憲法違反なのだから、その一部分を構成する「遺骨土砂問題」にこれほどの憲法問題が見つかるのも当然だろう。
憲法第10章は、憲法を「最高法規」だと言っている。沖縄は、立憲主義を標榜する日本の一都道府県だ。であれば、なぜこれほどの憲法違反がまかり通るのだろうか?
社民党さん企画「憲法を活かす」の他の出演者からは、憲法の理念を社会変革に繋げた成功体験も多く聞かれた。しかし、「沖縄では、憲法は人々の命と尊厳を守る為の道具としての機能を失っているのではないか?」と疑わざるを得ない。国による沖縄差別は、これほど酷いのである。
沖縄では憲法が最高法規ではない。これは、「沖縄が平時ではない」ことを意味するのではないか。日本の平和運動では、「戦争を二度と繰り返さない」と叫ばれることが多いが、沖縄は「既に戦時である」と言わざるを得ないほどの状況に置かれているのではないか。
「憲法を活かす」第2部では、自衛隊の「南西シフト」が大きな論点となった(詳細は川端記者の記事のとおり)。2015年には陸上自衛隊とアメリカの海兵隊が、辺野古新基地に陸自の離島防衛部隊「水陸機動団」を常駐させる密約を結んでいたそうだし、「国家安全保障上重要な土地等に係る取引等の規制に関する法律案(重要土地等調査法案)」が通れば、基地周辺が事実上の戒厳令下に置かれる怖れも出てくる。
この間際立つのは、防衛省の傲慢さだ。4月21日の直接交渉では、厚生労働省が管轄する遺骨収集事業と矛盾する土砂採取計画を進める防衛省・沖縄防衛局に、厚生労働省自身すら中止を求められない現状が露呈した。
「沖縄×福島クロストーク 命を重んじる社会へ」での、福島県大熊町住民・木村紀夫さんからの報告からも、防衛省の異常さが浮かび上がった。木村さんは、放射性物質汚染土の中間貯蔵施設となった帰還困難区域内で、ひとり次女の汐凪さんの遺骨を探し続けている。環境省の職員は、当初そこに遺骨がまだある現状を認知していなかったというから、死者の尊厳に全く配慮しないという点では、沖縄での防衛省・沖縄防衛局の態度と同じだ。
しかし、沖縄防衛局の職員は、「沖縄島南部の土砂に遺骨が含まれていることを知っているか?」との具志堅氏の質問に返答すらしないまま、遺骨収集を永遠に不可能にする土砂採取をしようとしている。帰還困難区域内に遺骨がある現状を認知した結果、木村さんの遺骨収集継続を認めている環境省とは対照的だ。同じ「省」であっても、防衛省が個人の権利・尊厳を軽視する姿勢は、突出しているのではないだろうか。