「遺骨土砂問題」から見た日本国憲法―日本全体の戦時化を止めるために

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土砂採取を含む鉱山開発事業は「環境権侵害」と考える根拠

沖縄島南部の土砂に染み込んでいる遺骨は、沖縄住民の方のものだけではない。沖縄戦において日本軍が、「本土防衛」の為に、沖縄の住民を盾に取った持久戦を展開した結果、特に沖縄島南部では軍民混在の状況が発生した。それ故、そこに染み込んだ遺骨は、沖縄住民・日本兵・米兵・強制連行された朝鮮半島出身者など、多様な背景を持つ。

従って、「遺骨土砂問題」の一番の当事者である沖縄戦遺族は日本国中のみならず、朝鮮半島・米国を中心に世界中にいると考えられる。従って、現在の土砂採取計画を強行すれば、日本国内の係争だけではなく、外交問題にまで発展しうる。

憲法第15条2は「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」と定めている。防衛省や沖縄防衛局の職員も当然「公務員」であるから、日本中・世界中にいる沖縄戦遺族の人権・尊厳を侵害し、外交問題を惹起しうる政策を進めることは、憲法が定める公務員としての義務に違反していることになるだろう。

2016年に超党派の議員立法で成立した戦没者遺骨収集推進法の第3条には、「国は、戦没者の遺骨収集の推進に関する施策を総合的に策定し、及び確実に実施する責務を有する」と書かれている。つまり、国の責任で戦没者の遺骨収集を行うことは、遺族のみならず、民主主義的に示された国民全体の民意である。それに反して、一部の業者の鉱業権を優先させることは、憲法前文で定められた国民主権の大原則にも、憲法第15条2にも違反している。

さらに言えば、厚生労働省の援護分野に関するトピックスから一目瞭然なように、国は硫黄島での遺骨収集など、軍人の慰霊・顕彰には熱心である。そもそもの援護事業が、軍人遺族のみ優遇し、空襲被害者ら住民の戦没者には受忍を強いるものであるから、その枠の中にある遺骨収集事業にも矛盾が生じるのであろうが、一部の戦没者遺族のみ優遇するのは、憲法第14条の定める平等権に違反しているのではないだろうか。

ちなみに、今年4月26日、厚生労働省社会・援護局事業課は戦没者遺骨収集等における手順書(別冊)「沖縄における古墓由来の遺骨との判別について」を発出し、DNA鑑定や同位体比分析の手順を示して沖縄へのリップサービスをしているが、そもそもご遺骨を辺野古の海に撒こうとしているのだから、本末転倒の印象操作である。

さらに、土砂採取を含む一連の鉱山開発事業を環境権侵害と捉えることだって可能ではないだろうか。日本国憲法は直接環境権を規定していないが、憲法第13条(幸福追求権)で環境権の個人権的性格、第25条(生存権)で環境権の社会権的性格が導かれるとの議論がある。環境基本法第1条(目的)にも、「環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与する」と書かれているし、環境が保全された土地で生活を行う権利は憲法上認められた権利だと言う根拠は十分にあるはずだ。

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