「遺骨土砂問題」から見た日本国憲法―日本全体の戦時化を止めるために

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金井利之先生の『行政学講義』

司法は、「安全保障は国の専管事項」の一点張りで、軍事化を進める政治・行政への監視機能を放棄している。金井利之先生の『行政学講義』での議論によれば、基本的人権、特に少数者の権利を保障するためには、司法権の独立が「三権分立のうちで決定的に重要」(p.58)であるにもかかわらず、だ。

確かに日本国憲法は権力分立を明示的に定めてはいないが、憲法前文は近代立憲主義の「人類普遍の原則」に基づくことを謳っており、「当然に権利分立の原理を採用している」と金井は主張する。「三権分立が憲法で明記されていないから、司法が政治・行政の傀儡のようになっても良い」というのは、単なる暴論だ。

防衛省の力が肥大化し、タカ派の政治権力者と結びついて独立した権力を奮い出せば、それはもはや明治憲法下の軍国主義である。憲法前文には「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意」すると書かれている。このまま司法が、政治・行政の軍事化を止められなければ、日本全体が戦時に突入することになりかねない。

その被害を被るのは、日本全体だ。沖縄だけではない。最近の自衛隊の災害派遣に対する積極性を振り返ってみて欲しい。地震・豪雨・山火事などの自然災害での援助活動のみならず、ワクチン接種にまで自衛隊が入ってくるそうだ。住民と自衛隊との距離を縮め、徐々に生活を軍事化しようとしていれば、沖縄戦と同じシナリオである。

そんな状態で重要土地等調査法案が通ればどうなるだろう。今は一応「重要土地」は基地や原発などとされているが、その定義も恣意的に決定され得る。例えば、内閣が「オリンピック会場も重要土地だ」と言い出せば、東京にも事実上の戒厳令が敷かれることになりかねない。

いきなりそんな状態にまで発展しないかも知れないが、「無理が通れば道理が引っ込む」という。憲法が最高法規性を失っているこの国では、「日本全体が既に戦時である」くらいの危機感を持って生活しないといけないのではないだろうか。

憲法を活かす」第2部での三上智恵監督の指摘にもあるとおり、「9条を守る」という、従来の平和運動の活動方針では限界がある。「国民主権」の原則をより実践的に捉え直し、文字通り主体的に「憲法を活かす」ことが不可欠だ。

先に引用した『行政学講義』には、「実力の乏しい被治者の最大の武器は知力」と書かれている。権力を乱用する国に立ち向かうには、主権者たる市民一人一人が、国の問題を批判するための知力を養うことが必須だ。憲法を再読し、9条以外にもどのような条文が自分たちの盾として使えるのか、知恵を絞ることが肝要だろう。

国は様々な印象操作を行ってくるので、市民は運動を組み立てる際の言葉遣いにも、一層の配慮が求められる。例えば「私権」や「緊急事態」という言葉。「緊急事態」条項を憲法に明記しようとする改憲論議は、コロナ対応のための「緊急事態」宣言発出を求める市民の声に悪乗りした印象操作だ。市民は、「私権の制限を許すな」と言ってそれに抵抗するが、それに乗じて沖縄の土砂採取業者は「県による私権(鉱業権)の制限を許すな」と強弁する可能性がある。

同じ表現を全く違う問題・文脈で使うことで印象操作を図るという点では、安倍政権が好んで用いた「積極的平和主義」と同じだ。本来「積極的平和」は「構造的暴力から解放された状態」を指し、「武力を伴う紛争がない状態」という「消極的平和」より踏み込んだ平和概念のはずだが、安倍政権は同じ表現を軍事力拡大の正当化に悪用した。そんな国の印象操作に愚弄されないよう、一つ一つの言葉の用法を鋭敏に分析することも、市民に求められる知力だろう。

沖縄×福島クロストーク 命を重んじる社会へ」にゲスト出演して下さった、Dialogue for Peopleの安田菜津紀さんは、5日のポリタスTVで入管法の問題に関して、メディアと政治家の鈍感さの悪循環により、問題の悪化が放置されたことへの反省を語った。

「遺骨土砂問題」、ひいてはそこから見えてくる「日本全体の戦時化」の問題で同じ轍を踏んではいけない。「誰かが死なないと問題解決に向かわない」ではおかしいのである。市民の知力によって、人道上の問題に対する日本社会の鋭敏さを高めなければ、新たな犠牲が生み出され続けるだろう。

憲法の理念を語ると、理想主義だと嘲笑される風潮がある。しかし、憲法が理想主義的なのは当然だ。憲法の土台にあるのは社会契約論的発想であり、憲法とは「人が人として生きる為に社会が満たすべき理想の条件」をまとめたリストだと言えるのではないだろうか。「憲法を活かして生きる」ということは、「社会がそんな理想に少しでも近づくよう、主権者が頭と手を動かす」と言うことだ。理想主義は国民主権の実践のためのエネルギーである。

ちなみに、抵抗権は社会契約論の重要な柱である。国が誤っていれば市民は抵抗すべきだし、そうする権利がある。「分をわきまえろ」という同調圧力には、「抵抗は主権者としてのわきまえだ」と返してやろう。

【告知】

「5/14(沖縄県知事による最終判断のタイムリミット)まで 遺骨で基地を作るな!緊急アクション!」

https://peraichi.com/landing_pages/view/afv70

「5/14まで 沖縄の声を運ぶフォトリレー」

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