バイデン大統領と菅首相との首脳会談を経て4月17日に発表された日米共同声明については様々な見方がある。例えば、「台湾海峡の平和と安定」とか「両岸問題」という表現は長年にわたって中国が使用してきた言葉であるので、事前に日中間で“擦り合わせ”が行われたのではないか、との観測もある。あるいはまた、気候変動問題担当のケリー米大統領特使が首脳会談の直前に訪中し、中国の担当官との間で気候問題での米中協力に関する共同声明が発せられたが、会談場所が1972年のニクソン訪中の舞台となった上海であったため、ここでも米中間で何らかの”擦り合わせ“が行われたのではないか、という見方もある。
とはいえ、実に52年ぶりに日米首脳の共同声明に台湾が言及されたことは中国を強く刺激することとなった。なぜなら1969年の佐藤・ニクソン会談の当時は、日米両国ともに台湾を「中国を正当に代表する政府」と位置づけており、共同声明では「台湾地域における平和と安全」を「日本の安全」と深く結びつけることが謳われていたからである。
「台湾有事」
かくして中国は台湾周辺での軍事力の誇示をさらに強化し、米中対立を背景に「台湾有事」が一挙に焦点に浮上してきた。もっとも、米政権のインド太平洋調整官のカート・キャンベルは、台湾をめぐっては「米中間である程度現状を維持することが両国の最善の利益になる」と述べ、中国による台湾侵攻への対応を明確にしない従来の「戦略的曖昧さ」を継続する立場を明らかにしている。(5月4日付「ロイター電」) さらにブリンケン国務長官は米政権の対中政策について、「時に競争的、時に協調的、そして必要な時には敵対的」との基本姿勢を繰り返し明言している。
とはいえ、「軍事の論理」は独自に展開を続け、中国による威圧的とも言える軍事拡張に対抗して、5月中旬には九州でフランス陸軍が初めて参加する日米仏の離島防衛訓練が実施されるなど、緊張が高まるばかりである。すでに日本は先島諸島への自衛隊の配備を急速に進めてきたが、米国も脆弱性の深まった南西諸島を防衛するために「ミサイル要塞化」の計画を立ち上げ、こうして「琉球の防壁」が築かれようとしている。そして今や、「台湾と沖縄は一体」というスローガンが声高に勇ましく叫ばれるまでになってきた。
こうした事態が進んでいくならば、沖縄が格好の攻撃目標となるであろうことは、火を見るよりも明らかである。現に米国の軍事専門家たちにあっては、「米軍に基地や拠点を認めた国は中国の攻撃対象になる」という認識は広く共有され、だからこそ沖縄の海兵隊の分散化も進められている。嘉手納基地への攻撃さえ具体的なシナリオとして想定される情勢を踏まえるならば、沖縄が再び「戦場」となる危険性が増大していると言わざるを得ない。