編者が語る~座談会「つながる沖縄近現代史」【上】

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―著書『沖縄の民衆意識』で大田昌秀さんは、日露戦争から第二次大戦にかけて沖縄出身の兵士には「他府県出身の兵士とは、異なった使命感を負わされていた」とつづっています。他県よりも遅れて日本に組み込まれた沖縄の兵士は、戦場で「身を以て国に殉じる」ことにより、「祖国のためにかくの如き忠勇の人民あり」ということを、「日本全国の人びとに知らしめる責任」を担わされていた。その姿は「動物的忠誠心」と揶揄されたこともある、と。遅れて日本人になった沖縄の人たちは、戦場においても過度に愛国的態度を示す必要に迫られていたのでしょうか。

前田 当時は新聞がそういうムードを醸成する役割を担っていたのは確かです。太平洋戦争の戦時体制に入っていく中で、真面目に「日本人」を目指さないといけないという沖縄社会のムードを盛り上げる役割を果たしたと思います。 

古波藏 「動物的忠誠心」という言い方について配慮がないとかそういうレベルではなく、本質的に違うと言えるのは、「近代化」という視点が抜け落ちている点です。沖縄戦に至るまでの同化は近代化の一部でした。つまり、沖縄の人が日本人になろうとしたのは、日本語を身につければ出世のパスポートになるから、という経済的、社会的な動機がかなりの部分を占めました。それがある種の生活道徳になり、軍律に転化され、日本語を喋らないものはスパイだというのが、ムラ社会的なつながりの中で強力に作動する。当時はSNSなんかないけれども、対面で監視されているため、ものすごく強烈に相互監視が作用するんです。しかもその指標が言葉の訛りや身体的な振る舞いに密接したところにある。戦場においても、スパイとして殺されるか、日本人として死ぬかという究極の二者択一の論理が沖縄戦のなかにはある。それを後から見て、「動物的」だと言ってしまうと、大事な部分が見えなくなります。

―「動物的」という揶揄はヤマトの側の言葉ですよね。大田昌秀さんはそのことへの批判とともに、屈辱を感じて著書で言及されたのかな、と感じました。 日本国内の中でも沖縄出身の兵士たちの軍隊への忠誠心は突出していたと言えるのでしょうか。

前田 ここは微妙なところですね。他の地域との比較は『つながる沖縄近現代史』でも考慮していません。招魂祭や忠魂碑は日露戦争後に全国に広がった、靖国神社を中心とした兵士の慰霊顕彰と連動しているとは言えますが。今の段階で言えるのは、こうした全国的な流れの中に沖縄がしっかり組み込まれている、ということだと思います。

秋山 その辺りは『つながる沖縄近現代史』の第六章で高江洲昌哉さんが扱っていた「伝統と近代」の問題とかかわります。沖縄における伝統的なものとは何だったのかという話だと思います。伝統は日本の各地域の農村含めて存在していましたから、沖縄の特殊性というのはなかなか簡単に比較できるものではない。ただ、沖縄における伝統の問題は、日本の近代化の中で沖縄がどういう位置にあったのか、というのとセットなので、そういう意味で特殊性もあると思います。ただ、沖縄だけが特殊という見方ではなく、伝統的なものと近代化とのかかわりのなかで理解することが必要でしょう。

そういう意味でも高江洲さんの指摘は興味深い。上からの「皇民化」の力だけでなく、ある種「日本人らしさ」を競う相互監視のなかで、戦争に向かっていったのです。それが第六章では、天皇(制)との関係も含めて描かれています。

前田 皇民化教育も日本語の強制も、日本との非対称な関係の中で行われていたのは確かですが、高圧的に命令されて従ったというよりも、自発的にやらされる力が強かったんだと思います。琉球処分から間もない時期は就学率も伸び悩み、学校に通うとヤマトンチュにされてしまうから行かないというような民衆側の抵抗意識が多分にあったのですが、日清戦争後は日本への帰属が決まったから同化を目指したというのではなく、古波藏くんが言うように経済的な要因が非常に大きいわけです。第1次大戦後に日本が昭和不況(1929~30年)に入っていく時期と軌を一にして、沖縄では砂糖バブルの崩壊と昭和不況の両方に見舞われ、生活困窮に陥る人が急増しました。その際、「正しい日本語」をしゃべれないと良い働き口も見つからない、ということがありました。また、必然的に日本語をしゃべらないといけない状況に置かれるのが徴兵制度でした。軍隊で苦労しないように「徴兵者教育」が沖縄各地で行われ、そこで日本語を教えるわけです。こうして沖縄戦に突入するまで、じわじわと日本人に同化していかざるを得ない状況がつくられていきました。

冒頭に戻ると、ペリーの琉球来航は、米国が北米大陸を統一後、アジアに海洋進出し始めた時代です。世界の出来事に米国がコミットしていく最初の段階で琉球が絡み、1945年の沖縄戦を経て、米軍の沖縄駐留という形で現在に連なっています。 

<【中】に続く>

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