編者が語る~座談会「つながる沖縄近現代史」【下】

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2021年11月に発刊された『つながる沖縄近現代史』(ボーダーインク刊)の共編者、秋山道宏・沖縄国際大学准教授(39)、古波藏契・明治学院大学社会学部付属研究所研究員(31)、前田勇樹・琉球大学附属図書館一般職員(31)の3人に沖縄の近現代史のポイントを解説してもらった。

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【日本復帰によって沖縄はどう変わったのか】

―日本復帰によって沖縄はどう変わったと見ていますか。

秋山 復帰後も基地問題は保守と革新の争点になります。一方で、保革の枠を越えて方向性が一致するような分野もありました。それが開発です。復帰後、経済的な豊かさを求める県民の声を受け、沖縄社会は「開発」という方向でしか、一致点を見出しにくくなった、という捉え方もできます。

―復帰とともに始まった、国による沖縄振興体制について説明していただけますか。

秋山 沖縄振興開発体制の内実は、道路整備を中心とする公共事業です。産業振興の柱を復帰前の工業開発からインフラ整備へと大きく舵を切ったため、建設業界が影響力を持つ流れに経済界が再編されるとともに、県民がある種の豊かさを享受できる状況が整いました。沖縄開発庁を通し、沖縄総合事務局という国の出先機関が主導して公共事業を行う「上からの開発」の側面が強くなったことで、日本政府に対する経済的な依存が政治的な従属にもつながり、基地問題は非争点化されていきました。 

古波藏 「沖縄振興開発計画」の冒頭には、沖縄戦による荒廃や27年に及ぶ米軍統治に置かれたことなどの沖縄の特殊事情に鑑み、「格差是正」や「自立的発展」のために特別に配慮することを、「長年の沖縄県民の労苦と犠牲に報いる国の責務」といった美辞麗句が並んでいます。しかし、押さえておかなければいけないのは、沖縄振興体制の基本は米国統治の継承であるということです。島ぐるみ闘争の後、米国は経済成長を人為的に作り出そうとします。本土と同様に「所得倍増」という言葉を米国も使って住民を鼓舞しました。しかし、構造がいびつなんですね。外部からいろんなものを引っ張ってきて、しゃにむに数字だけをそろえる手法でした。沖縄の人たちが日本本土をうらやまないよう、日本本土が15%経済成長したら沖縄も15%成長させよう、みたいな。どうやって、と言えば、外資導入で砂糖やパインの増産を図り、日本政府に買ってもらう。行き詰まると、日本政府の援助を注ぎ、しゃにむに沖縄経済の「成長」を演出する。それによって、基地を維持してもいいよね、と60年代を通じて住民を説得していたわけです。それでも立ち行かなくなったため、施政権を日本政府に返還し、日本に金を出させて基地を置かせてもらおう、というのが沖縄振興体制の文脈です。

官僚出身のエコノミストの大来佐武郎は「復帰のタイミングで沖縄経済が失速するようなことがあれば、住民の不満や社会不安を招き、ひいては米軍基地の安全に差し障る」といった言い回しで、沖縄に対する経済的な手当ての必要性を唱えています。大来は沖縄経済を「人工栄養の経済」と評しています。復帰とともに、県民の不満が基地に向かわなかったのは沖縄振興体制が築かれたからです。それが50年後の今も維持されているとも言えます。

―復帰によっても基地が縮小されなかった不満を和らげるため、振興策が必要だということは日米ともに考えていた、と。

古波藏 ということですね。むしろ、逆の言い方でもよいと思います。つまり、基地を置き続けるためには経済成長が必要で、そのためには日本の国土計画に沖縄をはめ込んでしまうほうが早かった、と。 

―沖縄振興体制は「沖縄への贖罪精神」や「本土との格差是正」が前面にうたわれていますが、それは表の看板に過ぎないというわけですね。

古波藏  戦後日本の土建国家体制の中に沖縄をはめ込んでしまえば統治しやすいというのが、沖縄振興体制の真髄でしょう。

―当面基地を縮小するつもりはなく、基地を安定維持するためには経済的に特別な扱いをしてもメリットがあると踏んだわけですね。

古波藏 そうです。日本の他の地方は高度経済成長期以降、どこも人口を維持できていないにもかかわらず、沖縄だけがずっと人口を増やし続けてきました。その分だけ労働市場が確保されているからです。額そのものが他府県と比べて特別多いかどうかは別として、基地の維持に必要なだけの金を注ぐつもりだったのはたしかでしょう。見やすい指標は人口推移ですね。

―人口の面では振興策の効果はあったと言えると。 

古波藏 それに関しては、『つながる沖縄近現代史』の13章で、経済学者の平恒次さんの論文を引きましたが、他人の金で膨れ上がった人口は、いつ止まるかも分からないしそれに対する備えがないのも問題という見方もできます。沖縄振興体制がぐらつきはじめ、それに対する批判的な視点が沖縄からも芽生えている今、平の警告がリアリティを持ち始めていますね。

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