問題は日米地位協定なのか?【その4】正しい国際比較

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駐留軍への国内法適用の有無

 

もう一つは、駐留軍に対する国内法の適用の有無である。

西ドイツ政府はNATO加盟時から、自国の軍隊の主力をNATO管理下におき、命令権や司令権の一部を移譲している。つまり、ドイツ軍の主力は、自国政府ではなくNATOの指揮に従って動くということだ。このため、西ドイツは、ドイツ軍と在独NATO軍を区別せずに関連法令を整備してきた。

ドイツ統一によって、在独NATO軍が占領軍としての性質を失ったとき、新生ドイツは、自国軍とNATO軍の一体性をいかして補足協定を改定させた。駐留軍に対する国内法の適用範囲を広げることで、駐留軍の訓練や環境保護に関する規制を強めたのだ。

日本の場合には、憲法9条とこれを支持する世論のもとで、防衛関連の法律の整備が不十分な状態が続いてきた。有事法制も同様である。

しばしば、「日米地位協定は日本の主権の問題」といわれる。だが仮に、日本の主権を守るべく、在日米軍・基地に日本の国内法を適用しようとしたとき、はたして国内法で在日米軍の活動や基地の運用をカバーできるかといえば不可能だろう。

 

平時と有事の区別

 

イタリアは、ドイツよりもさらに駐留米軍に対する国内法の適用範囲が広い。イタリアがNATO軍地位協定とは別に米国と結んだ二国間協定では、ほぼすべての事項について、米軍の権利よりも同国の主権が優先されることになっている。

ただし、この二国間協定は、あくまで「平時」の適用が条件になっている。イタリアが非常事態、緊急事態だと認めた場合には、同協定ではなくNATO軍地位協定が適用され、米軍の権利はより広く認められる。

日本では、米軍はどんなときでも非常事態、緊急事態を前提とした基地の使用を認められている。常に有事を想定した米軍の訓練が、沖縄をはじめとして実施されているから、騒音などの被害や事故も多い。

もし、日米地位協定が平時と有事の二段構えになれば、有事を想定した昼夜を問わない在日米軍の訓練は、大きく規制されるだろうか。現在の安倍晋三内閣の安全保障政策を見るかぎり、あまり期待できそうにない。

現政権は、尖閣諸島周辺の接続水域への中国船侵入を重大視し、また、北朝鮮の核ミサイル実験に対してJアラートや避難訓練を実施し、これらの脅威を「国難」と呼ぶ解散総選挙を行ってきた。日本政府が、平時を有事であるかのように喧伝しているときに、平時を前提とした日米地位協定の規定が運用されるとは思えない。

 

同盟条約と基地協定の分離

 

ここまで、イタリアやドイツと日本の日米地位協定を比較してきた。それでは、フィリピンや韓国との違いはどうだろうか。

米国は、NATO諸国やフィリピンなどのほとんどの同盟国との間で、相互防衛条約と基地協定を別々に結んでいる。

どういうことかというと、フィリピンでは、1992年までに全米軍が撤退したが、その後も米国とフィリピンとの同盟関係は続いている。同盟条約と基地協定が別物だからこそ、フィリピンは米国との同盟関係を維持したままで、米軍の自国撤退を要求できた。

ところが、日本と韓国は、同盟条約と基地協定が一つになったものを米国と結んでいる。もし、すべての在日米軍が日本から撤退することになれば、それは日米安保条約の解消を意味する。日米安保条約は本質的に駐軍協定なのである。

日米同盟の本質が米軍の日本駐留である以上、在日米軍の維持が日本の安全保障政策の目的になるのは自然のなりゆきだ。日本政府が、在日米軍にとって駐留のモチベーションが下がるような、米軍の権利を制限する日米地位協定改定に消極的なのは、同盟条約と基地協定が一体化した日米安保条約に根本的な原因がある。

 

【参考文献】

本間浩編著『各国間地位協定の適用に関する比較論考察』内外出版、2003

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