コラム 穀雨南風 ①~「パンとサーカス」

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「考えたくない」

 

ある大学で沖縄の基地問題についてのドキュメンタリーを見せて、学生たちと論じたことがある。

「沖縄ばかりに基地を押しつけてはいけない」

「でも日本の安全保障のためには必要なのではないか」

彼らは必ずしも多くない沖縄の知識を総動員して、自分なりの考えを発していた。そんな様子をじっと見ていた一人の学生の発した言葉が忘れられない。

「沖縄の問題をぼくは考えたくない。難しすぎます。解決できないものを考えても仕方ないでしょう?」

少々斜に構えたところはあったが、決して不真面目な学生ではない。それどころか抜群に頭が切れ、読書量も驚くほどだった。通っているのは日本の最難関の大学、その中でも最も偏差値の高い学部だった。

いや、だからなのかもしれない。確かに彼の言う通り、沖縄の基地問題は考えるにはあまりに入り組んでしまっているのかもしれない。

今や、日米安保条約を国民の多くが支持しているのに、自分の住んでいる地域で米軍基地を受け入れるという本土の人間はほとんどいない。となると沖縄の基地負担を減らす方法はひとつだけ、米軍に日本から出て行ってもらうしかない。でも中国はなんだか出張って来ているし、北朝鮮の脅威も続いている。米軍がいてくれないと不安だ。とするとやはり沖縄に我慢してもらって基地を置いておくしかないのではないか。これまでもそうだったんだし、考えてみると地理的にも沖縄がちょうどいい。いや、でも沖縄に米軍基地の70%を押しつけておいていいことにはならない。でもそんなこと言われても、本土のどこが受け入れるというのだろう。

かくして解決策が見いだせないまま、議論は堂々巡りを続ける。まるでどこかの絵本で虎が木の周りをぐるぐると回り続けたように。

 

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