パッケージ・ディール
2004年9月、米軍再編をめぐる日米間のすれ違いは、両国の亀裂に発展しかねないところまでいった。日米局長級会談に顔を出した、ポール・ウォルフォウィッツ国防副長官が、在日米軍再編と中国の脅威との関連にくりかえし言及したにもかかわらず、日本側の出席者はノーコメントをつらぬいた。失望したウォルフォウィッツは、途中で部屋を出ていってしまった。
事態を打開したのは、アーミテージ国務副長官だ。彼は、その翌日の日米首脳会談に向けて根回しを行い、米軍再編協議の加速に日本側が協力することを条件に、沖縄の負担軽減を実現する、という「パッケージ・ディール」を、ブッシュ大統領と小泉首相との間で成立させたのである。アーミテージがお膳立てしたトップの決断に、国防総省も従わざるをえなかった。
だが、この後、小泉首相が防衛庁の守屋武昌事務次官に命じて、普天間の移設先の再検討や代替施設の建設計画の見直しを行わせたことで、日本政府と沖縄県との対立は決定的なものとなり、普天間移設をめぐる政治的混迷はかえって深まっていく。
小泉内閣は、在日米軍再編協議を通じて、普天間移設の実現を前提とした、在沖海兵隊に所属する文民ら7000人のグアム移転や、嘉手納以南の米軍基地の将来的返還の可能性について、米側との合意にこぎつけた。過去の政権と沖縄県との間で合意が成立していた、既存の普天間移設計画をゼロから見直そうとした小泉内閣は、この日米合意でもって、計画変更に対する沖縄側の反発を和らげようと考えた。
しかし、沖縄県と名護市、名護市とキャンプ・シュワブのある久辺三区を分断して、強権的に沖縄側に計画変更を承諾させようとした、守屋事務次官の手法は、かえって稲嶺知事の態度を硬化させ、日本政府と沖縄県との間に埋めがたい溝をつくる結果となったのである。
沖縄の真の友は誰か
2018年3月、沖縄県は、アメリカの首都ワシントンD.C.でシンポジウムを主催した。翁長雄志知事やペリー元国防長官の基調講演に加えて、国防次官補として沖縄返還交渉を主導したモートン・ハルペリンなど、5人のアメリカ人の専門家と野添文彬・沖縄国際大学准教授が、普天間移設問題について論じた。
翁長知事はアメリカへの出発直前、シンポジウムでは、普天間移設の阻止につながるような「代替案」を有識者たちに提案してもらう、と説明した。だが、実際には、「沖縄の重要性はさらに増している」「在沖米軍は有事に必要だ」というアメリカの専門家たちの主張が、議論の大半を占めた(2018年3月18日付沖縄タイムス記事)。
翁長知事はこれまでにも、ワシントンD.C.に足を運んでは、米議会関係者や米政府関係者とのつながりを得ようと尽力してきた。その努力は、西銘知事がアーミテージの心に種をまいたように、いずれ実を結ぶかもしれない。しかし、現在のところ、政権に近い立場で沖縄の味方となりえる者は見つけられていないようである。
沖縄の真の友となりえるのは誰なのか。それはおそらく、アーミテージのように、メディアも市民団体もいないところで、ときには日本側にさえ悟らせずに、米政府の政策決定に静かな影響力を行使できる人物だろう。