高江と地位協定、その問題の本質

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日米地位協定の欠陥

 

普天間飛行場の移設先である名護市辺野古にしろ、高江にしろ、メディアでは移設の是非や移設反対運動ばかりが取り上げられてきた。そのため、ヘリパッドが完成した後、201710月に高江で起きた米軍機墜落事故をのぞいて、高江をめぐる報道はほとんどなくなった。しかし、問題の本質は、米軍基地が近隣住民を騒音や事故などで苦しめることにあり、高江住民にとっては、ヘリパッド移設後からが、終わりのない騒音や事故に果てしなく耐えていくという真の問題の始まりなのである。

米軍が日本領空を飛行する根拠としているのは、日米地位協定第5条第2項の、米軍船舶・航空機・車両は米軍「施設及び区域に出入し、これらのものの間を移動」できる、という規定である。ここで注意すべきは、「移動」が米軍にとっては「訓練」とされてきた点だ。しかし、日米地位協定では、米軍の訓練は米軍基地内で行われることが前提となっており、日本領空内を基地から基地へと移動するという形での訓練は想定されていない。

しかも、国は航空法、道路法および道路交通法、港則法などが米軍の「移動」を妨げないよう、これらの国内法の米軍への適用を除外している。たとえば、航空法には、離着陸時を除いて150メートル以上、市街地では300メートル以上の高度を保たねばならないという最低安全高度制限がある。しかし、国は1952年以来、最低高度の制限などが米軍には適用されない航空法特例法を制定し、引き継いできた。

高江の住民は、小中学校の上でもかまわず集落をかすめて低空飛行する米軍機に日々恐怖している。だが、米軍からすれば低空飛行の規制がない以上、何も問題はないということになる。

 

誤解の多い地位協定改定論

 

では、日米地位協定を改定すれば、問題は解決するのか。その前に、あまりにも誤解の多い地位協定改定論を整理する必要がある。

日米地位協定は、ドイツやイタリアの地位協定と比べて不平等な内容だといわれるが、そもそも日米地位協定はNATO軍地位協定に相当するもので、ドイツやイタリアの地位協定といわれているものは、NATO軍地位協定の補足協定にあたる。つまり、ドイツやイタリアのように、駐留軍に対して国内法を適用し、騒音・事故や汚染などに関する規制を強めたいのであれば、日米間で補足協定を結ぶことを検討すべきである。

また、ドイツやイタリアの補足協定も万能ではない。駐留軍に対して国内法を適用できるのは平時のみであって、有事にはNATO軍地位協定が適用される。

さらに、NATO軍地位協定では、平時か有事かの判断は加盟国間の協議によって決められる。他方、日米地位協定では、平時か有事かの判断は米国が一方的に下せることになっている。そのため、米軍は日本国内では常に、有事を想定した訓練を行うことができる。

もしも、日米両政府間で補足協定を結び、両国が有事だと判断しない限りは、米軍にも航空法などの国内法を適用できることにすれば、高江を含めた米軍の航空機が出入りする基地周辺の騒音や事故は、格段に軽減されるであろう。

だが、このようなことが実現する可能性は限りなく低い。訓練も含めた在日米軍の活動が日本の安全に寄与してきたと、長年固く信じてきた日本政府が、決して望まないからだ。結局、真に変えるべきは日米地位協定よりも、米軍に依存した国の安全保障観なのである。

 

※本稿は「沖縄を苦しめる日米地位協定の欠陥」(日本語版)『WEBRONZA – 朝日新聞社の言論サイト』からの抜粋・一部加筆修正です。

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