「本土」が分断を生んだ

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政権が推す佐喜真淳氏と翁長雄志前知事の遺志を継ぐ玉城デニー氏が激突した沖縄県知事選。「分断」の芽は沖縄内部にあるのではなく、沖縄と本土の間にある。

たった一人で陳情活動

 

「この成果を沖縄の有権者に届けたい」
知事選投開票5日前の9月25日。東京都小金井市在住の米須清真さん(30)は、自身が提案した陳情が同市議会で採択された瞬間、出身地の沖縄に思いをはせた。
陳情は、辺野古新基地建設を中止し、米軍普天間飛行場の代替施設建設地は沖縄以外の全自治体を対象に再検討するよう政府に求める内容だ。

米須さんは、新基地建設が止められない状況を目の当たりにし、沖縄の人たちの間に政治への脱力感が広がっている、と感じでいた。「未来は自分たちの手の中にあるという希望を沖縄社会に取り戻したい」。そう考え、たった一人で市議会全会派を訪ね、「辺野古」の不条理を説いた。

米須さんの政治参加の経験は、官邸前デモを「見に行った」ことがある程度。知り合いの市議もいなかった。
議員の反応はさまざまだった。「リベラル保守」を掲げる一人会派の議員とは、小金井市内の沖縄料理店で杯を重ねて意見交換した。この議員は米須さんの話に耳を傾け、「日米安保を認める立場だが、沖縄に基地が偏在していることが差別というのはその通りだ」と陳情に賛同してくれた。この議員が自民会派と公明会派の議員にも、「この陳情に反対したら、それこそ差別でしょう」と迫り、「せめて反対ではなく退席を」と説得してくれた、と米須さんは聞いている。
陳情審議の際、自民会派の議員は「反対」に回ったが、公明は反対ではなく「退席」した。

米須さんを駆り立てた背景には、「本土」で直面したギャップがあった。
名護市辺野古にある国立沖縄工業高等専門学校を卒業後、大学進学のため沖縄を離れたのは20歳のとき。「オスプレイってかっこいいよね、沖縄に帰省したとき写真撮ってきて」。学生時代、友人にそう頼まれ絶句した。
前の職場の退職時。別の部署の上司からこう言われた。
「仕事辞めたらどうするの? 辺野古に行って左翼運動したら日当もらえるから、やったらいいじゃん」
悔しさが募った。沖縄で起きていることが本土で全く共有されていないと痛感した。ウチナーンチュとして自分に何ができるか考えるようになった。

米須さんは、知事選で問われたのは「沖縄とヤマト(日本本土)の関係」だと感じている。
「このままでいいのか、と考えざるを得ない状況に追い込んだのはヤマトの側です」
政権が推す佐喜真氏に投票した人でも、新基地を望む人は少ない、と考えている。
「沖縄で積極的に基地を肯定する人は一握りです。そのことを沖縄の人は互いにわかっているから、今後も分断されることはありません」(米須さん)
分断は沖縄内部ではなく、基地問題解決の壁となって立ちはだかる本土との間にある。

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