強硬策とは裏腹に
冷静に見れば、仮に今回、土砂が投入された区域の埋め立てができたとしても、予定される埋め立て全体の5%に満たないのが実情である。「県民感情を逆なでしてまで、船数隻分の土砂を投入してみせることに何の意味があるのか」というのが、今回の一件の適切な位置付けであろう。
にもかかわらず、このような強硬策によって「もう後戻りできない」と演出して見せるのは、一見したところの強靱さとは裏腹の、政権側のおかれた苦しい立場の現れである。辺野古移設を推進してきた安倍政権幹部は、「工事を止めないことが重要だ」と漏らしたことがある。もし県との対話に応じていったん工事を止めてしまえば、多くの問題をはらんだ計画だけに、ずるずると後退を強いられ、そのまま移設計画自体が政治的に死んでしまうことが分かっているのであろう。
工事を進めても難題が
だがその一方、工事を進めるにしても、この先には多くの難題が待ち構えている。今回、土砂が投入された区域の北側には、水深が深い上に、「マヨネーズ状」とも言われるきわめて軟弱な地盤が広がっていることが明らかになっている。新基地建設を進めるには設計変更が不可避だが、それには知事の承認が必要になる。
設計変更に踏み出せば知事権限の壁に突き当たり、また、軟弱地盤の存在も広く世に知られることになる。仮に大規模な地盤改良工事に踏み切れば、大浦湾の自然環境は壊滅的なダメージを受けることが必至だろうし、工費も現在の見積もりの10倍にまで膨れあがるという指摘もある。現状でも新基地完成までは10年以上とされ、上述の問題点を考慮すれば20年近くかかると見られる。その頃、日本の財政状況はどうなっているだろうか。
また、辺野古新基地の滑走路は普天間基地に比べて短く、必要とされる機能を満たしていないという声が米側から聞こえる。辺野古新基地を完成させても、本当に普天間基地は返還されるのか。そこで新たな対米交渉が必要になりかねないというのが実情であろう。しかもそこに至るまでの期間、普天間基地の「危険性除去」はお預けということだろうか。要するに、問題があまりにも多いのである。