コラム 穀雨南風⑦ ~ 沖縄の若者が抱いた疑念

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沖縄の県民投票が告示された。

あとは静かに沖縄の人々の判断を待ちたいけれど、そのプロセスを見ながら感じたことを書いておきたい。

 権利を守るために身体を張って訴える

 

「『辺野古』県民投票の会」の元山仁士郎代表が、県民投票の全県での実施を訴えてハンガーストライキを始めて4日目のことだ。

私が担当するBS-TBS「報道1930」に橋下徹・前大阪市長が出演した。橋下氏は出したばかりの著書で沖縄基地問題の解決策を提言していたこともあって、番組の半分近くを基地問題についやした。ハンガーストライキ中の元山さんと中継をつなぎ、県民投票への思いを尋ねたあと、私はスタジオにいる橋下氏に、「もし聞きたいことがあれば」と元山さんとの対話を促した。

「本当に民主主義を大事にするんだったら」と橋下氏は切り出した。「すぐにハンガーストライキをやめるべきだ。まずは自分の健康のことを考える」

橋下氏は強い口調でそう言ってから「県民投票をやるなら政府に影響を与えるような内容に変えないといけない」と持論を展開した。「中国の公船を沖縄の港につけさせるぞと、中国寄りの拠点化を沖縄は目指していく 沖縄県民がその覚悟を示せば、もう本土のほうは大騒ぎですよ」

中継で出演する前、元山さんは病院でメディカルチェックを受けていた。四日間、何も食べていないのだ。実際、私の問いに答える元山さんの声は、いつもの張りを失っていた。

そうした状況でなかったら、私は橋下氏らしいとも言える挑発的な物言いが生み出す緊張感を楽しんでいたかもしれない。しかしその時は、とてもそんな気持ちにはなれなかった。

空腹が体力も気力も奪っているであろう只中で、その行動を否定するような言動は、あまりに酷に感じられたのだ。サブと呼ばれる副調整室にいる大勢のスタッフも、息を呑んで見つめていたに違いない。

橋下氏が話し終わるや、私は「様々な意見がありますので」と反射的に口にしてから、「いつまでハンガーストライキを続けるのでしょう?」という問いを投げかけた。橋下氏の言葉は質問というよりも、自らの主張の展開だったから、それに対して元山さんが答えを返すとは思っていなかったからだ。

元山さんは「五つの市町村が参加すると決めるまで」と、まず私の質問に答えてから、カメラを凝視した。「橋下さんの意見に対して、自分の意見をのべてよろしいでしょうか?」

予定時間ははるかにオーバーしていた。しかしそのあとのコーナーが全て飛んだとしても、元山さんの言葉を聞くべきだと思った。

「どうぞ」と私が言うと、元山さんは「4点あります」と前置きして続けた。「民主主義にハンガーストライキが反するということですけど、私たちとしては投票権、自分たちの権利を守るために身体を張って訴えているんです」

元山さんは橋下氏の主張にさらに反論を重ねた。そしてこう言ってのけたのだ。「中国の公船を沖縄の港につけるということをおっしゃってましたが、それなら橋下さんもそういう趣旨で沖縄で県民投票やるということで動いていただいて、たくさんの署名を集めて、沖縄で県民投票をやればいいんじゃないでしょうか」

 ハンガーストライキが流れを変えたのは間違いない。身体を張って抗議し、全県投票に持ち込んだ元山さんに心から敬意を表したい。

しかしそのプロセスを振り返ると、今も不可解な部分が残る。

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