彼女なりの防御反応
夕方、仕事を終え勤務先の那覇市から自宅のある宜野湾市へと車を走らせる。
ほぼ毎日上空を米軍機が通過する。
一昨年(2017年)、娘の保育園に米軍機の部品と思われる落下物が見つかった事故以来、私は機体の真下を通るのが怖くて、路肩に止めたり減速したりして、過ぎて行くのを待つようになった。
米軍機は想像以上に近くを飛行する。特に離発着が多い宜野湾市の嘉数や普天間方面に近づくにつれ、機体はどんどん大きく見え、もの凄い爆音で飛んでくる。
右側から向かってくるヘリを横目で確認し、車を路肩に停める。
小さくなって行く先は、きっと娘の通う保育園の上空を、当たり前の様に通過していくのだろう。
上空飛行禁止にもかかわらず。
早く迎えたい気持ちに拍車がかかる。
「絵本の時間にうるさくて耳を押さえたら、ページがパラパラパラって。分からなくなったから借りてきたよ。」
毎週1回絵本を借りられる日、鞄からその本を取り出す娘。
「キーンって耳が痛かった。みんなうるさいって言っていた。」
空気を吐く様に当たり前に呟く。たった6歳の子が呟く現実。
絵本を開きその世界に入っていく。本を捕まえている小さな手は、パラパラとめくれていかぬよう、心なしかギュッと力が入っているように見え、彼女なりの防御反応なんだと思うと苦しくなった。
ドドドドド…臓物に響く低音。お腹の底にむしずが走る。
時計に目をやると23時をまわりそう。
外を見ると、夜空に爆音を轟かせまるで昼間かと思わせるように、夜間でも御構い無しに米軍機が飛んでいく。
カタカタカタ。低音の響きで網戸が揺れる。良かった起きなかった…
寝室で眠る娘を見て安心する。
日米合意の航空機騒音規制措置で制限されているのは22時。
2017年の沖縄タイムス紙によると、〝夜間訓練はパイロットの能力を維持する為に必要なもの〟と在沖海兵隊は回答した。
米軍が運営上必要とされるものは認められ、私達の静かな夜のライフスタイルは戦闘訓練に取るに足りないのか。
これは私の日常の一部。ずっとそんな空だ。
一昨年、今まで見ようとしなかった現実のフィルターが外れ、娘の命が脅かされた。あれから多くの抗議が起きようが行動しようが、何も変わらない日常。