「中道勢力」結集の軸となった県民投票

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沖縄の基地反対運動が、深刻な世代の断絶に直面しているということは、たびたび指摘されてきた。キャンプ・シュワブ前での座り込みによる移設工事反対運動の参加者は、主に、米軍占領下で反基地運動に参加してきた復帰前世代である。30代以下の県内の多くの若者にとって、座り込みは、仕事や子育て、学業を犠牲にするという点でも、また、暴力を恐れず権力と対峙するという手法の点でも、負荷や抵抗感が大きい。

選挙などの公的な政治参加を通じて、沖縄の基地反対の民意を政治に反映させることがかなわないために、沖縄では、座り込みなどの非公式な政治参加の方法が重視されてきた。だが、座り込みに対する抵抗感が強い県内の若者は、翁長知事当選以来、国政選挙で多くのオール沖縄候補が当選し続けるという結果を出しても、辺野古移設反対の民意が国政に反映されない状況が続いていることで、かえってチルダイ(無気力)に陥りやすくなっている。

元山氏をはじめとする県民投票の会幹部が、県民投票を重視しているのには、チルダイに陥りがちな若者に対して、座り込みに代わる闘う方法を考えさせるという意味合いが大きい。元山氏は、「県民同士でもう一度議論する」機会として、県民投票を位置づけており、結果よりもプロセスに重きをおいた運動という点にも、これまでの運動にはない特色が見られる。

こうした、若者による新たな運動の提案は、将来的な運動の世代交代につながる可能性を持っている。それは、沖縄の民主主義のためには不可欠なものである。金秀などが、黒子に徹する形で県民投票の会を支援し、若者たちを表に立たせていることも、新世代のリーダー育成に一役買っている。

 

沖縄初の「中道勢力」

 

県民投票の会の設立は、期せずして、沖縄県内の政界再編の流れを生みだした。20185月半ば、翁長知事を支持する与党県議の会派「おきなわ」が中心となって、金秀、かりゆしグループなどの県内15社の企業や、市町村長・議員50人超を集めて、「翁長知事を支える政治・経済懇話会」を立ち上げたのだ。

ステージ2の膵臓がんにかかったことを公表した翁長知事が、今年11月の沖縄知事選に出馬するかどうかは不透明な状況だが、重要なことは、同会が沖縄で初めての「中道勢力」を結集する試みだといえることにある。

戦後沖縄の歴史の中で、保守勢力は日本政府や米軍と協力して経済振興を優先し、可能な範囲で米軍基地の整理・縮小を求めるという立場だった。それに対して、革新勢力は、米軍基地の撤去を求めて米軍や日本政府と対決する姿勢をとってきた。

だが、長らく自民党に所属してきた保守政治家の翁長知事は、「日米安保に賛成」だという立場を明確にしながら、「日米安保の負担を全国で分かち合うべき」だと訴え、2014年の沖縄知事選で勝利した。翁長知事を支えてきた金秀やかりゆしグループも、基地収入よりも観光収入の方が沖縄経済を豊かにすると主張している。この背景として、いまや基地関連収入が県民所得の約5%にすぎないという現実がある。

翁長知事や彼を支持する財界は、従来の保革どちらとも異なる思想を掲げて、沖縄県民の大多数から支持されている。しかし、オール沖縄に革新勢力が含まれていたことから、翁長知事はこれまで、外からは革新と見られがちだった。今回、革新勢力を外した翁長知事の支持団体が設立されたことで、翁長知事とその支持者の「中道」色が明確になったのである。

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