玉城デニー新知事誕生~「翁長路線」のアップデート

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上の世代と下の世代のかけ橋として

第2は、上の世代と下の世代のかけ橋についてである。前知事の翁長氏は、保革対立の激しい時代に保守政治家となり、その時代状況の中で苦悩・葛藤してそれを乗り越えようとした。一方玉城氏は、保革対立が溶解してきた時代状況の中で政治家としての人生をスタートさせ、また彼自身、それほど保革の色合いを出してはいない。よって保革の壁については翁長氏が突破口を開いたので、その継承者である玉城氏にとっては、沖縄戦やアメリカ統治を知る世代とそれを知らない世代との間の「溝」をどう克服するのかが、大きな課題となる。

その意味で玉城氏は、政治的なレベルを越えてより社会的な課題と向か合わざるを得ないのであり、ひるがえってその課題をどう克服するのかが、今後の沖縄政治の帰趨をも決めることになろう。沖縄の戦後を生き、その歴史も知り、ウチナーグチ(沖縄語)も流暢に話し、なおかつロック好きで明るく気さくな玉城氏は、上の世代と下の世代を架橋し得る可能性を秘めた人物である。今回の選挙戦でそれを随所に感じたのは、決して私だけではないはずである。

 

本土の空間にフィットした言葉を

第3は、対本土についてである。沖縄の基地問題は日本国民全体が自らの問題として認識しない限り、本質的には動かない。よって中央の政治家を含めてどのように多くの国民に問題を認識させ、具体的な行動へと導くのかが、大きな課題となる。

翁長氏の場合、「いったい沖縄が日本に甘えているんですか。それとも日本が沖縄に甘えているんですか」という言葉に象徴的に示されているように、ストレートな物言いで本土側に問いを投げかけた。もちろん、「言葉の力」に敏感な同氏にとって、一種の「ショック療法」として自覚的にそう言ったのである。

一方玉城氏は、翁長氏が開いた地平を踏まえた上で、それとは異なるアプローチが求められよう。4期9年間の衆議院議員としての経験から、本土が沖縄とは異なる政治・言論空間にあることを同氏は熟知しているはずだ。よって玉城氏の今後の課題は、その本土の空間にフィットした言葉で語りかけ、多くの国民に問題を認識させ、味方にしていくことである。

例えば玉城氏は、「(東京と沖縄の)どちらか一方の視座から見るのではなく、日本全体の方々にも通じる言葉を選んで思いを伝えるよう意識しています」(本サイトの渡辺豪氏の論考「「戦後沖縄」ともに体現~翁長後継・玉城デニー氏の覚悟」https://okiron.net/politics/810/)と述べている。また今回の選挙戦では他府県や他府県から応援に駆け付けた人たちへの配慮も随所でなしている。それらのことを含めて考えると、従来の「沖縄対本土」という枠組み自体を玉城氏は克服し得る可能性を秘めている。

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