「個の内面」を凝視
深刻なのは、こうした男性の発言を受容しかねない世情である。平時と戦時をつなぐ回路は、規範や常識を逸脱した蠱惑的な面持ちで日常に潜んでいないか。戦争を引き寄せる磁力は、自分たちの外部にあるのではなく内部に巣食う。その前提に立てば、「戦争は悪」といったモラルの押しつけではなく、戦争とは何か、人間とは何かを問う必要がある。「国家の論理」に回収されない「個の内面」を凝視する営みの中に、定型を破るヒントもあるように思う。
『資料館だより』(60号)で普天間朝佳(今年4月に初の戦後生まれの館長に就任)は元学徒の証言や記録を丹念にたどりながら、戦争と個人の関係を勧善懲悪ではない形で提示している。
沖縄戦直前の1945年1月。東京出張から帰任した沖縄師範学校の野田貞雄校長は、教職員に「帰ってこられなくてもよかったのでは」と言われ、「建物は壊れても再建することができますが、人の心は一度壊したら再建することはできません」と答えたという。
この会話の抽出にとどまれば「美談」だが、普天間は「そのような野田校長も、学徒の戦場動員という側面では、紛れもなく大きな役割を果たした」と指摘。野田校長が当時の新聞紙上で女子の疎開を嘆き、これを阻止するため「強力な統制」の必要性を説く寄稿文も合わせて紹介している。
時代状況に適応し、教育者としての矜持と国家への忠誠がいっけん矛盾なく混在している野田校長の姿は、世俗を超えた普遍的価値に照らすことで陰影が濃くなる。