翁長雄志知事「市民は気づいている」
最後に翁長知事の言葉を紹介しておく。
翁長知事には、投票の5日前、火曜日夕方に稲嶺候補の選対本部で話を聞いた。応援演説の帰りに事務所に立ち寄ったところだった。
Qだいぶ競ってると言われていますが?
「沖縄の選挙は、いつも厳しいんですが、ただきょう(稲嶺候補)本人と回ったら、大変反響がいいので、私たちの言っていることが多くの市民に受け入れられているのかな、という感触を強く持ちましたね」
Q今回の選挙、どんな位置づけだと考えていますか?
「ひとつは名護の発展ですよね。街づくりが一番ですけども、沖縄の置かれている状況を考えますと、あの美しい大浦湾を埋め立てて、新しい基地ができて、なおかつオスプレイが100機配備されるというのは、数年前からはっきりしていますので、そうすると観光で生きていこうという名護の損失は大きいですから、こういったことも、よく理解していただいていると思いますね」
Q今回も政府・与党が相手候補を全面的にバックアップしていますが、運動の分厚さみたいなものは感じていますか?
「感じてはいますが、最近、事故などを通して、防衛大臣や外務大臣が米軍に抗議しても、本当に一顧だにされないという日本の国の悲しい現実があります。ですから、どんなに総理を含めていろんな話をされても、県民はそれをしっかりと見据えて、こういう言葉の中に方向性はないなと。しっかり選挙を勝ち、そしていろんな動きを本土の皆さんに見てもらって、理解を得ていくと。これが大きなことじゃないかと思っています」
公明党の動きについても尋ねてみた。
Q公明党が推薦を決めた、これはどうでしょう?
「まあだから、みんな中央との関係になるんですね。沖縄の(公明党)県本部とは、意思の疎通も含め、平和に対する考え方も、一緒なんですが、自民党本部がちょうど自民党県連に強制的にいろんなことをやるように、公明党さんにもそういうのがあるのかなという意味では、沖縄県の公明党の皆さまがたは、支持をされている方々は、そんなに動揺していないと思います」
Q動揺していない? つまり、一丸となってということにはならないと?
「私はそういう風に思います」
公明党員は自らの良心に従って、投票するだろうというのだ。
その理由として翁長知事は、新基地ができてオスプレイが100機飛ぶようになったら名護市の発展をつぶすことになることを市民は理解していると繰り返し、渡具知候補が打ち出している振興策に騙されないはずだと付け加えた。
「(渡具知候補の政策は)小さなニンジンをぶらさげるようなものでは。(辺野古に新基地ができれば)将来の沖縄の発展は、名護市の発展はないと県民は気づいてる、市民は気づいてるというのが、初めて、こういうことに見定めができるような選挙になってるんじゃないかと思いますね」
Q相手候補は辺野古移設について、はっきり言っていませんね?
「だから、それを言わないということが、今まで戦術として有効だったんだけど、今は言わないということが、おかしいんじゃないのと。そういう見え見えの嘘はつかないでちょうだいよ、というのが、無党派層からも気づかれて、この選挙戦は何とか良い形でいくのではないかと思いますね」
私はちょうど2年前、宜野湾市長選の際の翁長知事を思い出していた。普天間基地がある市のトップを選ぶ選挙は、今回と同じように自民党と公明党が推薦する候補がリードしていると伝えられていた。厳しい選挙だったのだろう、応援にかけつけた翁長知事はぴりぴりした空気をまとっていた。
その時に比べて翁長氏は、稲嶺候補の支持者たちとにこやかに談笑するなど、とてもリラックスしているように見えた。
県知事に当選した夜も「高揚感はない」と私に語った翁長知事のことだ。父親の選挙を子どもの頃から見続けてきたこともあって、一喜一憂せず、感情を表に出すこともほとんどない。心中でもし厳しいと感じていたとしても、表に出さなかっただけなのかもしれない。しかしその一方で、相次ぐ米軍の不時着や落下事故もあって、あるいは稲嶺候補が支持を受けてきた記憶から、選挙のプロである翁長氏も読み間違えたのかもしれない。
選挙を終えた今、私には今回の選挙が、ちょうど20年前の県知事選挙と重なってしまう。
8年つとめてなお人気があったはずの大田昌秀知事が落選した選挙だ。新人の稲嶺恵一候補陣営は大田知事が国と対立しているために「県政不況」になっていると攻め立てた。広告代理店が大きな役割を果たしたとも言われたが、「県政不況」というキャッチフレーズで戦った中心にいたのは、他でもない当時自民党幹事長だった翁長氏だ。
ある意味、手法としては同じと言ってもいいやり方で、翁長氏は、今度は敗北を喫したのだ。翁長知事の心の中にはどんな思いが去来したのだろう。
私は最後に今回の名護市長選が、秋に予定されている県知事選挙にどんな影響を与えると思うかを、翁長知事に尋ねた。辺野古を抱える名護で敗れることになれば、大義を失って知事選に出馬できなくなることもあるのだろうか、という問いを胸に秘めながら。
「私からすると、そういう先のことよりも」と翁長知事は表情を変えずに言った。「まず名護市長選に勝って、原点を大切にして、そういった事の中から、一つ一つ、これからも選挙はありますから、政治はいつも一つ一つを大事にしながら、先々に向けていくので、私は県政運営と、そういった一つ一つを勝ち取っていくというようなことは重要だと思っていますね」
翁長知事はこのとき本当はどんな思いを抱き、今後、県知事選挙に向けてどんな絵を描くのか。季節が移りゆくなかで、少しずつ見えてくるに違いない。